子どもから老人まで目の不調で悩んでいる人は多い。本書『心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因』(集英社新書)は専門家の立場から眼科治療の最前線を報告したものだ。目の異常は、目だけが原因ではないということを説く。ちょっとした「目からウロコ」の話が満載だ。
本書の概要は以下の説明でだいたいわかる。
「まぶしくて見えない! ぼやけたり歪んだりして見えない! まぶたが開かない! スマホ・パソコンで目を酷使する影響か、視覚の不調を訴える人が増えている。しかし、眼科で検査しても『異常は見つからない』。なぜか? それは見えない原因が『眼球』ではなく『脳』や『視覚の回路』にあるからかもしれない」
このあたりについて評者は体験的に理解できる。実はかつて脳出血を起こしたことがあり、そのときいわゆる「半盲」状態になった。右側の視野が良く見えなくなり、新聞やテレビを正常に見ることが難しくなった。これは脳出血の結果、脳の一部にある視覚をコントロールする部分が侵されたことによるという説明を医師から受けて、初めてモノを見るということは、眼球部分だけの働きではなく、そこから入った情報を脳で判断した結果であるということを知った。その後、数週間のうちに治療の効果か、自然治癒か、幸運にも「半盲」状態から回復して日常生活には全く支障がなくなり、こうしてパソコンで原稿が書けるようになった。
本書でもそうした「視覚」のメカニズムについて「『見える』というのは眼と脳の共同作業」と説明している。視野、色覚、光覚などの機能は眼球だけで完結しておらず、視覚に関与する大脳の視覚情報処理能力が参加できなければ実現しない、というのだ。いわゆる視力検査で分かる視力とは、視機能のごく一面でしかないということを強調する。
著者の若倉雅登さんは1949年生まれ。北里大学医学部を卒業後、同大学助教授などを経て、2002年から日本でもっとも歴史ある眼科専門病院井上眼科病院院長、12年から名誉院長。日本神経眼科学会理事長などを歴任し、目と脳の関係異常による病気を扱う「神経眼科」「心療眼科」の第一人者だ。著書多数。
若倉さんによると、神経眼科学とは20世紀の中ごろから米国を中心に発達してきた新しい学問体系だという。若倉さんの「師匠」にあたる石川哲さんが米国留学で学び、70年に帰国後に日本に紹介、若倉さんも学び、さらに2007年には脳の機能である「精神」も含めた「心療眼科」という領域も提唱してきた。
日本には約1万4000人の眼科医がいるが、日本神経眼科学会に属しているのは1000人弱。一割以下しかいない。一般の眼科に行って、問題が解決しない人は神経眼科の扉を叩くといいかもしれない。学会のホームページで「神経眼科相談医」として表示されている。
本書では「ドライアイという誤診断で片づけられる人が半数以上」「急激に増えつつある小児のスマホ内斜視」「レーシック手術で『過矯正』『眼痛』」「内外の学術論文にも書かれていない、うつ病で視力低下」など気になる項目が並んでいる。
本書は読売新聞のウェブサイト「ヨミドクター」で連載しているコラムをもとにしたものなので読みやすい。医師業界に根を張る「ヨミドク」だから信頼感もある。目の不調が気になる人に一読をすすめたい。
本欄では関連で『「よく見える目」をあきらめない』(講談社)、『医療事故に「遭わない」「負けない」「諦めない」』(扶桑社新書)なども紹介している。
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