坂井希久子さんの『17歳のうた』(文春文庫)を読み終え、自分の過ぎ去りし17歳の日々にBGMをつけるとしたら、どの1曲がピッタリだろうかと考えている。本書に登場する5人の17歳の少女たちには、1960年代から1990年代にリリースされた洋楽の名曲が贈られている。
YES「Owner of a Lonely Heart」(1983年)、Mariah Carey「Hero」(1993年)、QUEEN「We are the Champions」(1977年)、DAVID BOWIE「Changes」(1971年)、Jackson5「I Want You Back」(1969年)のタイトルがそのまま、本書に収録されている5話のタイトルとなっている。主人公の5人の出身地、家庭環境、見据える将来は、各人各様だ。
高校進学を諦め、祇園で舞妓になった彩葉(「Owner of a Lonely Heart」)。青森のマグロ漁師の家に生まれ、漁師の生き方に憧れる留子(「Hero」)。福岡の伝説の元レディース総長を姉に持ち、仲間内の裏切りをした女にヤンキー仲間と復讐するマリエ(「We are the Champions」)。和歌山で家業の神職を継ぐ決心をするが、女の宮司は体裁が悪いと一蹴される千夏(「Changes」)。山形でご当地アイドルとして活動するが、人気メンバーの脱退でピンチを迎えるみゆき(「I Want You Back」)。
登場人物たちのバリバリの方言が読みづらくもあったが、よくここまで書き分けられたなと思う。また、漁師、ヤンキー、神職という設定には親近感が持てず感情移入できなかったが、5人の個性がハッキリと描き分けられていた。
評者が最も面白いと思った1話「Owner of a Lonely Heart」について、もう少し詳しく触れておきたい。
彩葉は、母の事故死により高校進学を諦め、京都の花街・祇園甲部に飛び込んだ。「舞のお師匠さんは面と向かうと膝が震えるほど威厳があって恐ろしいし、たまにはお姐さんに『いけず』を言われることもある」。
2年ぶりに中学時代の友人と再会し、普通の高校生になった彼らとの距離を感じる。友人の制服のブレザーを見て「私にはもう、一生縁のないものになってしまった」と思う。好きだった男子の思い出がよみがえり再会できないかと期待するが、「そんなドラマみたいなことはもちろん、起こらなかった」と少しがっかりする。
「まだ『これこそが私だ』と胸を張れるほどじゃないし、他にも道があったかもしれないと、少しばかり後悔している」
「だがなにをするにせよ私はもう、『ここ』以外のどこからも、スタートを切ることができないのだ」
17歳という年齢をとうに越えていても、これらの心情描写に共感した。まだ17歳なのに...と思うが、当事者である彼女たちにとってはもう17歳、今まさに17歳。悩み、選び、時に後ろを振り返り、再び前を向く姿に、17歳という年齢独特の温度の高さ、まぶしさを感じた。
本書は、17歳の真っ只中にいる人々に著者がエールを贈る作品だ。10代後半から20代、30代と、あっという間に年齢を重ねていくことに戸惑ってしまうが、読者の実年齢に関係なく、登場人物と体験を共有できるところが読書の面白さだと改めて思う。
坂井希久子さんは、1977年和歌山県生まれ。同志社女子大学学芸学部日本語日本文学科卒業。2008年「虫のいどころ」でオール讀物新人賞を受賞し、デビュー。本書は、2016年に文藝春秋より単行本として刊行され、今年(2019年)文庫化されたもの。
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