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グーグルでも「根回し」をやっていた!

がんばらない働き方

   落ち込んでいる人に「がんばれ」というのは良くないといわれる。『がんばらない生き方』という本が話題になったこともある。本書『がんばらない働き方』(青春出版社)も基調としては同じかもしれない。

   では類書との決定的な違いはどこにあるのか。たぶんそれは、著者ピョートル・フェリクス・グジバチさんの経歴だろう。元Google人材育成統括部長。あのグーグルの元幹部がなぜ、あえて「がんばらない」というのか。そこが面白い。

脳みそに余裕がない

   表紙をめくると、「頭に余裕がなければがんばっても成果につながりません」という文言が目に飛び込んできた。これは確かにその通りだ。人間の脳みそで常に使われているのは1割程度、残りは遊んでいるのだから、もっと頭を使え、などと言われたことがある人は少なくないと思う。しかし一方で、自分の脳みそにそんな余裕が本当にあるのかと、半信半疑の人も多いはずだ。どうしたらいいのか。

   著者はポーランド生まれ。2000年に来日し、ベルリッツ、モルガン・スタンレーを経て、2011年、Googleに入社。アジア・パシフィック地域におけるピープル・ディベロップメント(人材開発)、グローバル・ラーニング・ストラテジー(グローバル人材の育成戦略)の作成に携わった。外国人だが、日本の外資系企業で長年働いてきたので、日本のビジネス事情にも詳しい。

   その著者の目から見ると、日本人は「がんばる」が大好きすぎる。目先の仕事に追われながら次々と「作業」を続けて、じっくり考える余裕がない。他人から言われた仕事をこなすので精いっぱい。要するに「見ていると辛い」ということだろう。

   そういえば、評者が社会人になりたてのころ、先輩が上司から説教されていたシーンを思い出した。熱心に働いている先輩がなぜ文句を言われるのか。上司の一言はキツかった。「君は今100%の力を出している。君にはこの先の伸び代がない。期待可能性がない」というのだ。ここまで言われてしまった先輩がどうなったか、その後のことは承知していない。

たまにはボーッと空を眺める

   では「余裕」をつくるにはどうすればいいのか。著者は「落ち着いて頭を整理しましょう」とアドバイスする。「頭に余裕がなければ、新しいアイデアや深い思考はできません」。まず必要なのは「不要なものを『捨てる』決断」。「時には、思い切ってパソコンから離れてボーッと空を眺める方がいいこともあります」。

   外国人が書いた本を読むと、意外な発見をすることがある。本書では「Do your best(最善を尽くそう)」と言う言葉が「目からウロコ」だった。

   英語のテキストなどで必ず登場する言葉だが、実際に使われることはまずない、という。著者は来日以来、外国人からこの言葉を聞いたことがないそうだ。この言葉は、たとえて言えば「時代劇で殿さまにひれ伏すような感じ」、すなわち、疑問や反論があっても我慢・・・という忍耐宣言のように聞こえることが多く、自由に自主的にポジティブに課題解決に取り組むというイメージの言葉ではないという。

   だから著者は、日本人から「がんばります」という言葉を聞くたびに、「もうがんばらないでください」「ちょっと落ち着いて、頭を整理してください」とお願いすることになる。

人生観と仕事への態度が密接に結びついている

   こうして著者は本書で「なぜ『がんばらない』ほうがうまくいくのか?」「自分の影響力が上がるネットワーク術」「『インパクト』が大きくなる働き方」「自分にしかできない『新しい価値』の生み出し方」などについて7章に分けて提示している。

   その中でさらに細かく「アジェンダのない会議はキャンセルしていい」「上司を賢くマネジメントするコツ」「プレゼンから斬新なアイデアが生まれにくい理由」など、具体例を披露している。

   その一つ、「グーグルがやっている『ポジティブな根回し』とは」を紹介しよう。

   一般に、外資系では「根回し」をしない、と言われているような気がしたが、大違いだった。著者によれば「よい会議は会議室の外から始まっている」。グーグルではオフィスのあちこちで「これどう思う?」「このあたりが問題じゃないか」など、日常的にオープンな情報交換が行われている。そうしたなかで「こんな感じで行こうよ」と緩やかな合意形成が進んでいく。つまり会議の前から、会議の中身を知り、コミュニケーションができている。

   日本の根回しは、会議前にA案とB案ができていて、今度はA案で行くから賛成してくれ、という一部関係者のクローズドな話に終始する。これに対してグーグル型はオープンな根回しといえるかもしれない。

   最後に著者は「仕事も人生もミニマリズムへ」と強調していている。「がんばらない」「捨てる」をキーワードになるべくシンプルな生き方を心がける。そして自分に「余裕」を取り戻す。すなわち著者の人生観と、仕事への態度が密接に結びついている。そのあたりが、「がんばる」を強制しがちな日本人によるビジネス書を超えた面白さといえる。

   本欄では関連で『「働き方改革」の嘘』(集英社)、『働き方1.9 君も好きなことだけして生きていける』(講談社)なども紹介している。

  • 書名 がんばらない働き方
  • サブタイトルゼロから"イチ"を生み出せる!  グーグルで学んだ"10x"を手にする術
  • 監修・編集・著者名ピョートル・フェリクス・グジバチ 著
  • 出版社名青春出版社
  • 出版年月日2019年1月10日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数四六判・240ページ
  • ISBN9784413231114
 

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