2018年は「仮想通貨」をめぐる事件や混乱をめぐるニュースが相次いだ1年だったが、仮想通貨を根底から支える技術が「ブロックチェーン」だ。もちろん、仮想通貨=ブロックチェーンではないのだが、巷にはこの二つを結びつけて解説する書籍が山のように積まれている。
ビットコインなどに代表される仮想通貨がバブル化したこともあって、一獲千金を狙う人たちが多いことも一因だろう。だが、本書『ブロックチェーンという世界革命』(河出書房新社)は、そうした金銭的な欲得を求める読者の満足を満たすものではない。一方で、インターネットの専門家や技術者向けでもない。
むしろ全くの門外漢向けに、仮想通貨も含めブロックチェーンが持っている思想的、文明論的な「意義」そして「破壊力」を噛み砕いて説明している。リスクを主要な研究対象としてきた著者の神里達博さん。現在、千葉大学国際教養学部教授のかたわら朝日新聞客員論説委員であることが、専門性と分かりやすさを両立させている理由だろう。
「技術が社会を決めるのか」「社会が技術を決めるのか」との問いかけに始まり、原爆開発が20世紀にもたらした影響、遺伝子工学の発展や環境問題などを経て、インターネットの普及の過程で登場したハッカーたちがいなければ、ブロックチェーンも仮想通貨もなかったという。
ビットコインは2008年に「サトシ・ナカモト」を名乗る人物がネット上に投稿した論文が元になっていることは有名だが、いまでもこの人物が誰なのかはわかっていない。この日本人風のネーミングをどう見るかの分析もなるほどと思わせる。想像上のビットコインを現実のものとしていくのが、ハッカーの反体制的な思想を受け継ぐ末裔たちということになる。
そこに通底しているのは、中央集権的な統制を嫌い、より自由で民主的な社会、そして情報の自由を求める精神だ。その精神に駆動され、国家に管理されない通貨、巨大ネット企業に支配されない情報や流通などが現実のものとなりつつあることがリアルに迫ってくる。
書名には「世界革命」という言葉が含まれている。読み進むうちに想起したのは「アナキズム(無政府主義)」革命だった。著者は「国家のない世界を目指すべきなのだろうか。筆者はそうは思わない」と述べてはいるが、国家や経済体制がこのまま生き残ることはないだろうと思わせるのには十分だ。
仮想通貨をテーマにした芥川賞受賞作『ニムロッド』を本欄では紹介済みだ。
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