GAFAという言葉を聞かない日がなくなった。グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンという米国の巨大IT企業をまとめて指す言葉だ。著者はニューヨーク大の経営大学院でブランド戦略とデジタルマーケティングを教える経営学の専門家。自身も連続起業家として8つの会社を起業した経験を持つプロフェッショナルだ。その豊富な経験をもとに21世紀の社会を大きく創り変えたGAFAの実像とその見えない危険にまで迫る。
筆者はGAFAを聖書のヨハネの黙示録に登場する四騎士になぞらえる。地上の4分の1を支配し、剣、飢饉、悪疫、獣によって「地上の人間を殺す権威」を与えられている恐ろしい存在だ。聖書になじみがないわれわれには大げさな表現に思えるが、読み進むとそうした比喩が絵空事ではないと実感させられる。
最初に登場するのはアマゾン。書き出しからして挑発的だ。「全米の世帯の44パーセントに銃があり、52パーセントにアマゾン・プライム(米国では年会費99ドル、約1万1千円)がある。富裕層では固定電話よりアマゾン・プライムと契約する世帯の方が多いと言われている」「アメリカのネット業界における2016年の成長の半分、そして小売業の成長の21パーセントはアマゾンによるものだった」。実店舗で商品を購入するときも消費者の4人に1人は購入前にアマゾンのカスタマー・レビューをチェックしているという。
日本でも本の宅配サービスの手軽さが受けて急成長したアマゾンだが、最近は品揃えの豊富さが支持され、小売業全体での存在感を急速に高めている。
筆者は米国の小売業でのアマゾン一人勝ちの実態を詳しく紹介する。2006年から16年の株価上昇率はアマゾンが1910%、シアーズやメイシーズなど他の大手企業はほとんどがマイナス、小売業の巨人ウォルマートだけがプラス2パーセントだった。そのアマゾンが今、実店舗への進出を進めている。ニューヨークなど大都市で高級スーパーとして知られるホールフーズを買収、460の店舗を入手したほか、レジのない実店舗も実験的に運営している。
アマゾンは自動化倉庫を開発するなど徹底的な省力化を進めていることでも知られている。2015年に全米の小売業で働く人の数はレジ係が340万人、販売員が280万人、倉庫係が120万人と推計されている。「いったいどれくらいの数の仕事が、より効率的で費用対効果の高いロボットに取って代わられるだろうか。それはアマゾンに訊くべきことだ」。
次に登場するのはアップル。「ジョブズという教祖を崇める宗教」という副題がついている。ジョブズに関してはさまざまな伝説が語られている。彼の死後、さらに「神格化」が進んでいると指摘する一方で、辛辣に「アップルはいつも他者からインスピレーションを得る(アイデアを盗むときの常套句だ)」とにべもない。「近年のアップルがインスピレーションを得ているのはぜいたくな高級品業界である。アップルは希少性を追求して並外れた利益を得るようになった」。
世界のスマホ市場のマーケットシェアと利益シェアの2016年のグラフが掲載されている。マーケットシェアのトップはサムスン(20.8%)、アップルは14.5%に過ぎないが、利益シェアではアップルが79%を独占、サムスンは14.6%に過ぎない。
筆者はその実態を詳しく分析する。「アップル・ユーザーはアップルを持つことで、自分たちは社会の画一的な歯車の1つではないという自負を強めた。かつて私もそうだった」。
ビジネススクールで教える筆者は、高級ブランドに共通する5つの条件を挙げる。①アイコン的な創業者、②職人気質、③垂直統合(メーカー直営店の存在)、④世界展開、⑤高価格。アップルはこの条件をすべて満たしているという。
フェイスブックの章には「人類の4分の1をつなげた怪物」、グーグルの章には「全知全能で無慈悲な神」いう副題がついている。
GAFAの成功について、筆者は8つの要素を指摘する。①商品の差別化、②ビジョンへの投資、③世界展開、④好感度、⑤垂直統合、⑥AI、⑦キャリアの箔づけになる、⑧地の利だ。
AIというのはデータへのアクセスとその活用能力。キャリアの箔づけとはトップクラスの人材を集める力だという。「そのためには求職者にとってキャリアの箔づけになる仕事であるとみなされる必要がある」。最後の地の利は「過去10年の間に時価総額が何百億ドルも増加した企業は、ほぼ例外なく世界的な技術系あるいは工学系の大学に自転車で通える距離にある」。アップル、フェイスブック、グーグルは西海岸の名門、スタンフォード大と良好な関係にある。アマゾンも有力大のワシントン大に近い。
GAFAに関する詳しい説明のほか、日本の読者にとってかなり参考になりそうなのは第10章の「GAFA『以後』の世界で生きるための武器」だ。ここで筆者は赤裸々なまでに本音を語る。「個人が成功するために必要な内面的要素」としては、心理的成熟、好奇心、当事者意識、大学に行く、ブランド、友人、フェアではない競争(を知ること)などが重要だと説く。
フェアではない競争というのは「(とくに米国では)大学の費用は目玉が飛び出るほど高い」うえに、一流大学に合格するにはその準備が必要になるからだ。入試は公正に行われるとしても、それを受ける機会が平等に与えられているわけではないというわけだ。
親切な筆者はここでも、年が若いわけではなく、一流大学出身でもない人たちに具体的なアドバイスを送ってくれる。
年をとっても新しいものを受け入れる、会社とは「連続的単婚」を心がける、組織ではなく人に誠実に、など。連続的単婚とはまったく初耳だが、会社を変わるのは構わないがその会社にいる間は誠実にということのようだ。ほかにも好きなことではなく得意なことでキャリアを築く、不満を口にしないというのもある。
この章は、今の仕事を続けていくかどうか迷っている社会人への誠実なアドバイスにもなっている。GAFAにそれほど興味がない人も、今の会社に居続けるべきなのか、そうではない選択があるのか、を考えるうえで参考になりそうだ。この50ページだけ読んでおいても損はない。翻訳はこなれていて読みやすい。
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