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『羊と鋼の森』著者が贈る、少女から大人への成長ストーリー

スコーレNo.4

 2016年本屋大賞受賞作で今年(2018年)映画化された『羊と鋼の森』(文藝春秋)の著者・宮下奈都による本書『スコーレNo.4』(光文社)は、07年の単行本、09年の文庫本の刊行から年数を経た現在も、増刷を重ねるロングセラー小説だ。宮下奈都は、1967年福井県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。2004年、3人目の子どもを妊娠中に書いた「静かな雨」が文學界新人賞佳作に入選し、デビューした。

 「スコーレ」とは、「スクール(学校)」の語源となった言葉。余暇、遊びから転じて、真理探究のための空間的場所を意味するギリシャ語という。主人公・津川麻子(あさこ)が、中学、高校、大学、就職の4つの段階、また、家族、恋愛、仕事、結婚の4つのフィールドを通して、少女から大人の女性へと成長していく姿を丹念に描き上げている。

 麻子は「広くなったり細くなったりしながら緩やかに流れてきた川が、東に大きく西に小さく寄り道した挙げ句、風に煽てられて機嫌よくハミングする辺り」の「物腰のやわらかな町」で、骨董品店を営む父と、母、祖母、1つ下の妹・七葉(なのは)、6つ下の妹・紗英と暮らしていた。

 麻子と七葉は「お互いの間を流れる感情はつながっている」ほど仲が良かった。一方で、名前、資質、器量のどれをとっても七葉に追いつけず、麻子は七葉と自分は全然違うことを自覚した。麻子は中学時代、「あとからあとから笑みが湧いてきて、歩きながら廊下にこぼれてしまいそう」な初恋を経験した。高校時代、七葉が想いを寄せる人に憧れを抱くこともあった。七葉のそばにいたらずっと負ける気がして、麻子は大学進学を機に家を出た。

 麻子は大手貿易商社に就職し、靴を輸入する部門に配属され、靴店での2年間の現場経験を課されたものの、靴を愛することができない。小学生の頃、小さな陶片の取り合いになった時、七葉は力ずくでつかんで離さなかった。「そういう頑なな一途さ」も何もない自分をさびしく感じる。ところがしばらくすると、靴の値段を当てる特技があると気づいたり、「魅力の大きい靴」を選んで店の中央に並べて売上に貢献したり、麻子の中に眠っていた骨董品店の娘としてのものを見る才能が開花する。「しかたがない、から半歩だけ踏み出したような気がしていた」と、仕事にやりがいを感じ始める。恋愛も、幸せの兆しが見えてきて――。

 著者の作品の魅力の1つは、誰かと共有したい、心に留めておきたい、読者にそう感じさせる印象的な描写にいくつも出合えることだろう。本書は、過去を懐かしむことも、現在を励まされることも、未来に希望を持つこともできる。どの年代の女性にも、ぜひ読んでいただきたい。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 スコーレNo.4
  • 監修・編集・著者名宮下 奈都 著
  • 出版社名株式会社光文社
  • 出版年月日2009年11月20日
  • 定価本体571円+税
  • 判型・ページ数文庫判・316ページ
  • ISBN9784334746780
 

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