読むべき本、見逃していない?

青年の成長を静かに温かく描いた、本屋大賞受賞作

羊と鋼の森

 『羊と鋼の森』は、2015年に文藝春秋から単行本として刊行され、16年に第13回本屋大賞を受賞し、今年文庫化された。本屋大賞とは、過去1年間で、書店員自身が読んで「面白かった」「お客様に薦めたい」「自分の店で売りたい」と思った本に投票し、選ばれる。

 主人公の外村は、高2の時、ピアノの調律師である板鳥と偶然出会う。板鳥が鍵盤を叩く音を聴き、「森の匂い」を感じた。以来、調律に魅せられた外村は、学校へ通い、調律師として働き始める。

 「ピアノが、どこかに溶けている美しいものを取り出して耳に届く形にできる奇跡だとしたら、僕はよろこんでそのしもべになろう」。ピアノの魅力に惚れ込んだ外村は、音と、人と、ひたすら向き合う。個性的な先輩や双子の姉妹と関わりながら、調律の森へと深く分け入っていく。

 一見物静かで平凡な外村だが、ひたむきな姿勢で調律に打ち込む過程で、「わがままが出るようなときは、もっと自分を信用するといい。わがままを究めればいい」と、内に秘める情熱と信念は、揺るぎないものになっていく。

 タイトルから、どんな物語を想像するだろうか。「羊と鋼」はピアノを構成する素材であり、「森」は外村が歩んでいく場所を示している。著者の、ピアノ、音、音楽への思いの深さが、丁寧で豊かな描写で表現されている。

 作家の佐藤多佳子は、「無彩色に近い、やわらかい、凹んでも、またふわりとふくらみ、さらに大きくなる、そんな半透明のボールのような主人公の、独特な成長物語」と、本書の解説で記している。じっくりと、静かに、外村の日常を見守り、外村の繊細な感性による美しい音の描写を楽しみたい。

 著者の宮下奈都は、2004年「静かな雨」で文學界新人賞佳作入選。2007年初の単行本『スコーレNo.4』が話題を呼び、ロングセラーになる。『羊と鋼の森』は初版6500部だったため、本屋大賞の受賞に著者も驚いたというエピソードがある。著者の作品は、登場人物の日常の風景や感情がみずみずしい文章で丁寧に描かれ、読むと優しい気持ちになると、人気を得ている。

 本作を原作とする映画「羊と鋼の森」(監督 橋本光二郎/主演 山﨑賢人)は、6月8日に公開予定。映画化にあたって、著者は「頭の中に広がっていた森、耳の中だけで鳴っていた音が、スクリーンの中に実在することに、驚いていただけると思っています」「映画から漏れた小さな場面を文庫の中に見つけるのも、私のひそかな楽しみ」と語っている。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 羊と鋼の森
  • 監修・編集・著者名宮下 奈都 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2018年2月10日
  • 定価本体650円+税
  • 判型・ページ数文庫判・288ページ
  • ISBN9784167910105

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