ちょっと前までの寒さが続いた間は、テレビCMでは高い頻度で、いわゆる「風邪薬」が放映されていた。毎年リピートされているものだがこの冬も「はやく効く」「すぐ効く」など即効性をアピールするメッセージがあふれたものだ。CMで見た製品をドラグストアなどで買い求めた人も多いだろう。
ところが、この春の新刊『薬学部教授だけが知っている 薬のいらない健康な生き方』(ダイヤモンド社)によれば、医学上は「風邪薬」という名の治療薬は存在せず、それどころか、いわゆる「風邪薬」の服用で、回復が遅れてしまう可能性があるというのだ。なぜ、もっとはやく言ってくれなかったのか...。
著者は医学博士、薬剤師であり、医薬品の研究をしながら大学で教壇にも立つ「薬学部教授」。真の健康を手に入れるためには、生活習慣の見直しなどに加えて薬とのつきあいかたも知っておいた方が役に立つのではないかと考え、その具体的な提案のため本書の出版を考えたという。
薬といえば、風邪薬は、われわれに最も身近な存在の一つにあげられるだろう。ところが著者は「風邪を治す薬は存在しない」ときっぱり。市販薬の効能書きの確認を促し「『風邪が治る』とは書いていないはず」と念を押す。効能書きにはたいてい「風邪の諸症状の緩和」とあり、それは、ノドの痛みやせき、鼻水、くしゃみ、頭痛、発熱、悪寒などをやわらげる対症療法としての効果を説明したもの。根本的に風邪を治すものではないのだ。
放ってはおけない仕事があるときなどは、やはり症状抑えてくれる薬にすがるかしかないかもしれない。だが、われわれに苦しい思いをさせる風邪による諸症状が実は、風邪を克服しようとするわたしたちの味方だということは覚えておいた方がいいかもしれない。
「熱は風邪をひいたから出るのではない」と著者。それではなぜ発熱するのかというと、体内に入り込んだウイルスを排除するためで、悪さをしているウイルスがまだ体内にいる間に薬で無理に熱を下げるのは「闘う武器の性能を弱めているようなもの」なのだ。ほかの症状も闘いを示すものであり、せきはのどのいるウイルスを、くしゃみは鼻にいるウイルスを体外に出すための働きという。「いわゆる風邪薬を飲むということは、風邪と闘おうとしている自軍の勢力を弱めてしまう可能性が高い。その結果、かえって回復が遅れることもある」。風邪薬の服用はオウンゴールにも似たものだった。
それでは風邪をひいてしまったらどうするのか。著者は「何もせずに静養に努めてじっとしているのが、いちばんの早道」と一言。風邪の症状の理由を知っている薬剤師は薬にも医師にも頼らないという。
大学の薬学部では入学するとまず「薬はリスクである」という考え方を徹底的にたたき込まれるという。それは、薬というのは致死量がある化学薬品であり、極端なことをいえば、飲み続ければ死に至る可能性があるためだ。副作用はその前段階という。
大学生活などを通じてそのことが身に染みている薬剤師は、できるだけ薬に頼らない生活を心がけている。つらい二日酔いに悩まされても市販薬を避け漢方系にしか目を向けないなど徹底している人も。
もちろん、薬剤師ら薬の専門家が薬をまったく信用していないわけではない。病気の治療のためには欠かせない。だから薬とつきあううえでは「病気になったときに飲む」「回復したら服用をやめる」という2点に注意を怠らない。というのも、アレルギーなどの場合を除いては予防のために飲む処方薬というのは存在せず、また、病気回復してからも、念のためなどとして、たとえば抗生剤の服用を続ければ、善玉の常在菌が死んでしまい健康リスクにつながる可能性があるからだ。
化学薬品である薬は、時代や社会状況応じて化学反応を起こしてさらにリスクを増す。不調で病院を訪れれば、医師が症状に応じた薬を処方してくれるが、著者によれば、実は医師は薬のことを意外に分かっておらず、また、経営的事情が微妙に処方に影響する可能性がある。処方薬をめぐっては近年、医療費抑制のため安価なジェネリック(後発医薬品)の普及に力が注がれているが、添加物などが先発薬と異なり、成分がまったく同じではないことの弊害が指摘されている。また、広く使われている薬のなかには認知症の発症リスクが高める疑いが浮上してきているという。
薬に専門的な知識を持たず、詳しい情報に乏しくても、なんとなく、薬に依存し過ぎはよくないだろうと感じている人は多いのではなかろうか。そうした心当たりのある人ならとくに前のめりに集中できる一冊。後半には、薬に頼らず維持する健康生活や、現代では不可欠な生活用品になっている抗菌グッズや除菌製品のワナなどに紙数を割いている。
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