大都市でも小さな街でも、ビル街でも田畑の中でも、どこに行ってもカラスはいる。本書『カラス学のすすめ』(緑書房)は、カラス研究の第一人者である著者が、人間に最も身近でありながら忌み嫌われているこの鳥の真の姿を解説したもの。「高い」とされる知的能力の実際や、解明されていない謎など、興味をそそられる話の数々が盛り込まれている。
著者の杉田昭栄氏は、動物形態学、神経解剖学を専門とする医学博士であり農学博士でもある。宇都宮大学名誉教授。大学の付属農場で飼育していたニワトリがカラスに襲われ食べられてしまったことに「猛禽類でもないのに」と驚くと同時に興味を持ち、このことがあった20年ほど前からカラスの研究を続けている。
「カラス博士」と呼ばれる杉田博士の指導のもとメーカー2社が以前、黄色半透明の「カラス対策ゴミ袋」を開発。導入した自治体からは成果が報告されている。
カラスの起源は、700万年前の発祥とされる人類より古く、約7000万年前のオーストラリア大陸と考えられているという。俗にいう「カラス」は、スズメ目カラス科の総称で46種類ある。日本には「ハシブトガラス」「ハシボソガラス」など5種類がおり、大都市でみられるのはほとんどがハシブトガラス。このハシブトガラスはクチバシが大きく太く、頭部が丸い。東京には十数年前には4万羽ほどいたが、いまでは1万2000羽ほどに減少した。東京に限らず、カラス対策は全国で進められていて、国内では年間30万~40万羽が害鳥として駆除されているという。
著者によれば、カラスは「頭がよく発達している」ので、人間のそばにすめば「食」や「住」に困らなくなることを長い年月をかけて学んだとみられる。「カラスが人間に近づいてきたのか人間の営みがカラスを身近にさせたのか何とも言えないところだが、現実として両者の接点が増え、摩擦が生じていることは確か」であり、カラスにとっては頭のよさが災いした格好だ。
カラスが賢いことは、その行動の観察などから、しばしば指摘されていることだが、他のニワトリやハトやカモなど他の鳥類と比べると脳が大きくできている。体重の占める脳の重さの割合をみると、たとえばニワトリが0.12%であるのに対し、カラスは1.4%にもなる。人間では1.8%というから、カラスは同じ鳥であるニワトリより、人間に近いことになる。ちなみに紹介されているウマは1%。
カラスは識別能力も高いという。イヌやネコにはできないがカラスにはできることも数多い。数人の顔写真を付けた容器を10回並べ替えても10回とも餌が入っている1人の顔写真が付いたものを選ぶ。イヌやネコは選ぶことはしないという。しかし、カラスも幼いころから飼い慣らされると、こうした識別能力は見られない。また、写真の人物の実際の姿をみても同一とは考えないといい、それは「所詮、カラスであるところ」なのだ。
同一人物の写真と実物を関連づけることはできないカラスだが「人を見分ける」ことはできる。男女10ずつの顔写真を使い、目や口、鼻など一部を隠して見せてカラスの反応をみる実験をしたところ、男女それぞれに何らかの共通性を見つけてしっかり区別できたという。この実験は継続中で、輪郭などほかの要素について調べて結論を出す計画だ。
カラスには人間を識別できることは明らかで、食べ物をくれた人に付いて回ったり、いじめた人間を覚えていて、その人をみかけると攻撃的な声をあげたりする。カラスは全身が黒く模様などないのでわれわれにとってはどれも同じにみえるのだが、カラス同士ではお互いの顔を識別しており、親は子どもを分かっているし、子どもの方も親を間違えることがない。
カラスにはまた数の概念があり、一つ、二つ...と数えられるわけではないが、数字を比較してどちらが多いか少ないかを判断できるという。実験によれば、一度覚えたものは、少なくとも1年間はその記憶をキープしているという。
「食」と「住」の面で人間のそばに居心地の良さを見つけたカラスとわれわれは向き合っていかなければならないと著者。カラスを「邪魔な悪戯者」として敵対的になるのか、その行動や興味ある習性に微笑ましさを感じながら見ていくのは「私たち人間の度量次第」という。
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