2003年に発覚した早稲田大学生らを中心としたスーパーフリー事件以来、大学生による集団暴行事件や強制わいせつ事件は陰をひそめていたように思えたが、慶應大、千葉大医学部、東邦大医学部同窓生による事件など、ここ数年再び報道されるようになった。中でも東大の大学院生らが酒に酔わせた女性に集団で起こした「東大わいせつ事件」は、世間の注目を集めた。
16年に発生した事件の公判で、起訴された3人は起訴内容を認め、謝罪したが、一審でいずれも執行猶予付きの有罪となった。判決は「数人が全裸の被害者の体を交互に触り、周囲の者はこれをはやし立て、被害者が泣き出した後も被害者の体を弄び、虐げたもので、犯行の態様は執拗で卑劣」と断じた。
この事件に着想を得て、直木賞作家の姫野カオルコさんが創作した小説が、本書『彼女は頭が悪いから』(文藝春秋)だ。「作中人物の行動や心情は作者の創造に基づくもので」とある通り、作家の想像力は天高くはばたき、事件を扱ったノンフィクションや実際の裁判記録では到達できない、男女の心理の機微に分け入る。
進学校から東京大学理科Ⅰ類に進んだ竹内つばさと、横浜の郊外の公立高校からあまり知られていない女子大に入った神立美咲の二人を軸に物語は進む。本作のモチーフとなった「本件」は冒頭に記したような内容だが、そもそもは淡い恋ではあった。
「ばかだなあ。こんなとこについてきて」と抱きしめながらつぶやいた、つばさに対して「私、ばかだもん......東大じゃないし」と言った美咲。この時は美咲をせつなく感じた彼は半年後、どう心変わりしたのか。
事件にかかわった東大生の中での階層性など、作者は彼らのエリート意識をこれでもか、と切り刻む。またLINEを使った犯行の様態など、現代の若者のコミュニケーションのありように迫る。
事件後、彼女を批判する電話、ネットへの書き込みが続く二次被害が発生した。加害者の家族もむしろ自分たちが被害者であるかのような対応をした。
週刊文春(2018年8月2日号)書評で本書を取り上げた高橋ユキ氏(裁判傍聴人、フリーライター)は「モデルになった実際の事件の加害者らの動向を追ったところ、1人は名前を変え、東大ブランドを前面に押し出して活動していることを知った」と書いている。この小説にもずいぶん震撼したが、現実もまた恐るべき事態になっているようである。
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