本書『MILK』(文藝春秋)は、石田衣良の恋愛短篇集。2009年から15年に「小説現代」「オール讀物」「つんどく!」「別冊文藝春秋」に掲載された、「坂の途中」「MILK」「水の香り」「蜩の鳴く夜に」「いれない」「アローン・トゥゲザー」「病院の夜」「サービスタイム」「ひとつになるまでの時間」「遠花火」の10作品を収録。15年に単行本として刊行され、今年文庫化された。
各作品の主人公は大半が30、40代の夫婦。作品ごとに、夫婦の関係性も、欲望の抱き方も、満たされ方も、多様なかたちを提示している。セックスレス、配偶者の大病、仕事による別居など設定は様々で、中には叔母と甥という意外なものもある。
35歳の友里恵は、性欲の坂道を上っている。一方、結婚して7年目になる夫は、熱のない調子である。友里恵は勇気を出し、自分の性的なファンタジーを夫に打ち明ける。(「坂の途中」)
雄吾は中学2年生の夏、隣の席の美穂から感じとった異性の匂いを、記憶と身体に沁みこませた。結婚して4年目になる雄吾は、新入社員の泉希からあの匂いを感じる。だが、妻はその匂いを持っていない。(表題作「MILK」)
「家族とセックスなんて、できるか」と言い、背を向けて眠ってしまった夫。このままでは、30代の10年間を1度もセックスをせずに過ごすことになる。そう思った皆子は、出会い系サイトで知り合った男と会うことを決意する。(「アローン・トゥゲザー」)
20歳の浩介は、アルバイト先で出会った智香子から、若い女性にはない魅力を感じて惹かれる。智香子は、アラフォー、既婚者、子持ち。ある大雨の夕方、浩介と帰る時間が重なった智香子は、浩介にホテルに行こうと声をかける。(「サービスタイム」)
1作品20ページほどの短篇でありながら、刺激的で濃密な描写の連続で、どっぷりと作品世界に入り込む。結婚していったん落ち着き、恋愛や性から距離を置いているように見える年代にスポットライトを当て、彼らが内に秘める情熱や欲望を引き出し、何らかのかたちで満たされていく幸福感を描いている。
もうこの年だから、結婚して子どもを産んだのだから、と自分を押さえつけることはない。年齢によって魅力が損なわれることはない。もっと心を解放していい。そんなあたたかいメッセージを受け取った。
BOOKウォッチでは、石田衣良の『オネスティ』『娼年』『爽年』(以上、集英社)を紹介した。『オネスティ』は、恋愛も結婚もしないと決めた幼なじみの物語。「娼年」シリーズは、娼夫として生きるリョウの物語。本書は、大人の男女が持つ人には言えない微妙な、繊細な感情を描き、肯定していて、主人公たちと同世代の読者として共感した。
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