総合週刊誌の最近の定番ネタは、定年前後に「すべきこと」と「やってはいけないこと」の二つ。両者は表裏一体であり、おおいに影響を与えたと思われるのが本書『定年前後の「やってはいけない」』(青春新書)だ。あいかわらず「定年」関連本が出ているなか、今年(2018年)4月の発行で、すでに10刷5万部と売れている。「やってはいけない」という「禁止形」のネーミングが効いているようだ。
著者の郡山史郎さんは、1935年生まれで83歳になるが、伊藤忠商事やソニー顧問などを経て、自分で起こした人材紹介会社の社長として今も現役で働いている。
定年前の転職希望者、定年後の再就職希望者を合わせて、3000人以上に会い、うまくいかない人の特徴を次のようにまとめている。
・いつまでも定年前の地位や収入、仕事の内容にこだわる ・60歳でひと休みして、充電してから再就職しようと思っている ・会社が用意した再就職支援会社をあてにする ・条件を徐々に下げる
郡山さん自身、定年後に起業しているが、起業だけは「やってはいけない」という。そもそも起業は職業の選択肢ではなく、軽々しく近づいてはいけないと戒める。「体力も胆力も満ちあふれた30代までに挑戦すべきもので、運と才能に恵まれたごく一部の人だけが成功するもの」と書いている。退職金をつぎ込んで会社を興した人の99%が失敗に終わっているとも。
定年後の仕事探しは、「とにかく働く」という気持ちでまず受け入れてみること、と勧める。前向きな気持ちで働くうちに、努力しだいで自分の能力やスキルを活かせるチャンスが広がるという。
評者も早期退職後、自営のような形で、いくつかの会社から仕事を受け働いてきた。ある会社から仕事を得たのが契機となり、「わらしべ長者」のような感覚で徐々に収入も達成感も充実したように思う。数年間の準備期間があったからこそ、いざ60歳になった時、うまく「離陸」できた。だからブランクを作らず、とりあえず働くという著者の意見には賛同する。
このほか、暮らし方についてもいろいろ提言している。
・資格を取っても仕事につなげるのは難しい ・老後資金は「貯める」より「稼ぐ」 ・「定年前」の人脈は使わない ・義理と礼を欠くのは高齢者の特権 ・「健康にいい」に惑わされるな
郡山さんは人生後半の第二ハーフにあっては、誰かの役に立つという幸せだけを追求して働けばいい、と訴える。その時問題になるのは「お金」ではない。「人生100年時代」を視野に入れた時、60歳から気の遠くなるような40年が目の前に広がっている。人生に「定年」なんてない、と考えれば、自分の足でずっと歩いて行くしかない、と覚悟も固まるだろう。
本欄で取り上げた「定年」関連の本としては『定年後』『定年入門』などがある。
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