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殺人犯の息子から電話がきたら、どうする?

人殺しの息子と呼ばれて

 事件の報道に携わるものにとって、報道後に関係者からかかってくる電話には緊張することだろう。それも「殺人犯の息子」と名乗る人物からだったら、その度合いはいかほどだろう? 本書『人殺しの息子と呼ばれて』(株式会社KADOKAWA)は、2002年に発覚し、あまりの凄惨な内容に報道が一部控えられた「北九州連続監禁殺人事件」が舞台だ。

 フジテレビのプロデューサー張江泰之さんが、別な番組で本件をとりあげたところ、加害者の長男(24)から電話があった。なぜ自分に取材しないのか、というクレームの電話だった。そのファーストコンタクトから、接触とインタビューを重ね、ドキュメンタリー番組を制作して放送に至るまでを描いた異色の本だ。

 フジテレビで日曜午後2時から放送される「ザ・ノンフィクション」は、一風変わった人の生き方を紹介する番組だ。昨年(17年)10月15日の「人殺しの息子と呼ばれて...」(前編)は、日曜昼にもかかわらず視聴率6.3%、1週間後の(後編)は異例の10.0%を記録する反響をよんだ。幼いころに目撃した事件の真相や自分も受けた両親からの虐待、その後どう生きてきたかを「音声加工なし」で語った(顔には紗がかけられた)。

 視聴者からは「自信をもって生きていってほしいです」など共感の声も多く寄せられたが、批判する声もあったという。J-CASTテレビウォッチの「てれび見朱蘭」(17年10月26日)では「想像を絶する余りに残忍な犯行のため、メディア露出が制限された事件を今になって息子に語らせた意図は判然としない」「いまいち、何を意図してインタビューしたのか曖昧で、息子への同情ともいえず、終わりまで視聴しても釈然としなかったのである」と疑問を呈している。

 書籍化にあたり、10時間におよぶインタビューの内容に加え、放送後の追加取材による近況や、本人以外にも後見人となった中学校時代の先生へのインタビューを加えた「完全版」となっている。

 本書の小見出しをいくつか抜粋するだけで、彼のこれまでの壮絶な人生がわかるだろう。「親父と似ているところがある。それが怖い......」「事件のことは自分で調べた」「子供は親を選べない。だから、あきらめるしかない」「父親の死刑判決には『安心しました』」

「加害者家族の人権」とは?

 この事件を取り上げた本としては豊田正義著『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』(新潮文庫)があり、評者は一度読んだときのおぞましい記憶があり、二度と読むまいと思っていた。その本にも出てくる「長男」が、その後どんな人生を送ってきたかを考えたことはなかった。

 殺人などの事件被害者の家族については、1980年代以降に運動がおこり、さまざまな法整備が進んだ。いわゆる「被害者家族の人権」である。一方、「加害者家族の人権」はどうだろうか? 彼らを追及し、差別することは許されることなのだろうか? 本書を読んで目が開かれた思いがする。

 張江さんは、長くNHKでディレクターを務め、「クローズアップ現代」や「NHKスペシャル」をてがけ、芸術祭優秀賞など多くの賞を受賞している。2005年にフジテレビに移り、現在「ザ・ノンフィクション」のチーフプロデューサー。  

  • 書名 人殺しの息子と呼ばれて
  • 監修・編集・著者名張江泰之 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2018年7月20日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・219ページ
  • ISBN9784041067345

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