すったもんだの挙句、2018年度から加計学園の獣医学部がスタートした。正式名称は岡山理科大獣医学部。52年ぶりの獣医学部新設ということで話題になった。さんざん批判されたわけだから、いまごろ大学側は教育に力を入れ、学生たちも熱心に勉強しているに違いない、と信じたい。
本書『獣医師になるには』(ぺりかん社)は、同社の「なるには」シリーズの一冊。加計学園問題はさておき、とりあえず獣医師とはどういう仕事か、どうすればなれるのか、丁寧に案内している。
ぱらぱらめくって驚いたのは、獣医に女性が増えているということ。国家試験の合格者は最近では約6割が女性だそうだ。農水省のデータによると、20代の獣医の女性比率は48%、30代は47%。年齢が上がって60代では5%、70代は1%というから増え方が極端だ。きっかけになったのは女性で初の上野動物園の園長になった増井光子さんだという。背景には近年のペットブームもあるのだろう。
ただしペットに関わる獣医師は全体の4割弱。実際には農林水産・公衆衛生などの公務員分野で働く人も多い。本書では動物病院、水族館、家畜診療センター、食肉衛生検査所など様々な分野の人たちに密着し、実際の仕事ぶりを紹介している。また、老舗の麻布獣医大を訪れ、授業の様子なども報告している。
本書はすでに2001年に刊行されており、今回は改訂新版。著者の井上こみちさんは動物ノンフィクション作家。『犬やねこが消えた―戦争で命をうばわれた動物たちの物語』、『いぬのかんごふさん ベッツとタンクル』『世の中への扉 災害救助犬レイラ』など多数の著作がある。このほか、動物関係の職業のガイド本として、『ドッグトレーナー・犬の訓練士になるには』 『動物看護師になるには』なども出版している。長く動物に関わって執筆しているので、業界に詳しく内容もわかりやすい。
本書の後段では「これからの獣医師の課題」についても触れられている。加計学園の獣医学部が新設されたことで、日本中の獣医師養成学部の総定員は一気に2割増になったそうだ。加計学園の獣医学部の定員は140名。これまで既存の獣医学部で一番多かったのは日本大学などの120名だった。
ネットで調べてみると、国立の名門、北海道大学や帯広畜産大学などはたった40名にすぎない。ゼロからその3~4倍の獣医を養成しようというのだから、大胆というか、業界に与えた衝撃がわかる。
本書は仕事のガイド本なので、そのあたりはごくさらりとしか書いていない。それでも、「農林水産省では、産業動物、家畜の需要自体と、ペットもある程度飽和状態なので獣医師を増やす環境ではないといっていて、関係者間の物議をかもしている」と、無視することはしていない。
近年、獣医学部は偏差値が上がっている。そうした中で、予備校などの偏差値調査によると、「加計」は全獣医学部の最低クラス。つまり、加計学園問題のもう一つの側面は、政府が、国家試験が必要な特定業種の定員を一気に2割も増やしたということであり、それも最低ランクの学生で増量したということになる。他業界で考えても、急に医師や薬剤師が2割も増えることになったら大騒動だろう。業界の今後や卒業生の就職については、政府責任があるといえる。
「獣医」になるには6年後に国家試験をパスしなければならない。「加計」の最初の結果が出るのは、そのときかもしれない。
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