日本のやきものは世界で最も古い歴史を持っているそうだ。その原点を探る特別展「縄文―1万年の美の鼓動」が2018年7月3日から東京国立博物館で始まった。縄文時代の土器や土偶など国宝6点が一堂に展示されるというので話題だ。本書『縄文土器・土偶』(角川ソフィア文庫)はちょうど同じタイミングで発売された。文庫サイズのガイドブックなので手軽に読める。
約1万3千年前に始まったと言われる縄文時代。縄目の文様が付いた土器が使われたので「縄文」と呼ばれる。狩猟や漁労、採集が行われ、人々の定住も進んだ。土器や石器という道具だけでなく、おしゃれな装身具も使われるようになった。素朴だが、味わい深い。いったい誰がどうやって、この技を開発したのか。
もちろん、今となってはそれはわからない。本書は、その縄文時代の土器や土偶の代表作をコンパクトに写真で紹介している。オールカラーで100点超。写真を眺めているだけでもためになるが、解説が疎んじられているわけではない。
まず、縄文時代をはぐくんだ日本列島の特性から説く。世界の雨の多い地域は赤道周辺に偏在するが、日本は例外的に雨が多い。世界の平均降雨量の二倍だという。加えて南北に細長い列島の中央部は山が険しく、そのことによって河川も生まれ、変化にとんだ地理的環境が形成された。周囲を見渡せば、寒流や暖流がぶつかり、世界有数の漁場もある。外界から隔離された「島国」の中で凝縮された環境と多様性。それが「縄文文化」を生む「マザーランド」になったと強調する。
もう一つ興味深かったのは、世界史とのズレ。日本の縄文時代の途中から、すでに海外では麦や米や雑穀の栽培、牧畜が始まっていた。農耕文化というのは、それまでの自然を壊して開墾し、特定の品種を大量に栽培、繁殖させること。
ところが縄文時代は、自然との折り合いをつけていた。縄文人は身近な自然にある「いろいろなもの」を「少しずつ」利用し、自然とのバランスに配慮していた。そのあたりの「違い」を改めて知ってなるほどと思う。それが結果的に、列島を統一するような大きな政治権力の誕生が遅れた理由の一つになったのかもしれない。
本書では、縄文時代の始まりや終わりには、いくつかの説があると慎重だ。文字史料があるわけではないから当然だろう。約1万年と言われる長い縄文時代の間には、寒期と暖期があり、海岸線の位置は相当変わったようだ。
いずれにしろ、本書におさめられている火焔土器など摩訶不思議、奇想天外としか言いようのないいくつかの造形を眺めていると、ご先祖たちはなぜ何のためにこんなヘンテコなものを作ったのか、首をひねらざるを得ない。マヤ文明の遺物です、といわれても信じてしまいそうな品々だ。彼らの精神世界と、現代のわれわれがどうつながっているのか。あるいは、つながってないのか。とりあえず「特別展「縄文―1万年の美の鼓動」を見に行って、自分の眼で確かめてみようと思う。
著者の井口直司さんは1952年生まれ。立正大学史学科卒(考古学専攻)。文化財保存全国協議会全国委員。『縄文土器ガイドブック―縄文土器の世界』などの著書がある。
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