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吉高由里子によって映画監督になった園子温

獣でなぜ悪い

 是枝裕和監督の「万引き家族」がカンヌ映画祭で最高賞を受賞し、日本映画の力量を世界に示したばかりだが、同世代の園子温監督もまた独特の作風により海外で高く評価されている。トロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門観客賞を受賞した「地獄でなぜ悪い」からタイトルを拝借した新刊『獣でなぜ悪い』(文藝春秋)は、園監督の作品でヒロインをつとめた吉高由里子、満島ひかり、二階堂ふみら女優とのかかわりを綴ったエッセイだ。

 本書の書き出しは「気がつけば、女性が主人公の映画ばかり撮っている」で始まる。今は誰もが知っている吉高らも園作品に出た頃は無名で、「園の作品に出れば、女優として開花できる」という雰囲気ができあがっている。女性は「自らの足で歩いて行ける、未来しか見ていない自由な獣だ」という監督の女性観が、本書のタイトルの由来になっている。

 NHKの朝の連続ドラマ「花子とアン」で大ブレークした吉高だが、2006年公開の「紀子の食卓」のオーディションに来たとき、まだ高校生で無名の新人だった。「ビートルズのメンバーは何人だ?」という質問に「五人」と答え、監督が「そんなわけねえだろ!」とツッコむと、「あっ、自分入れちゃった」と天然のボケをかました。その答えに「この人についていけば何かあるのではないか」と思い、演技も見ずに彼女に決めたという。

 まったくの素人だったから「ア・オ・イ・ウ・エ」という発声練習から始め、厳しく演技指導し、ファーストテイクは100回繰り返したという。追い込むことで、役者自身に殻を破らせるという演出手法だ。そして「吉高由里子によって僕は映画監督になることができたと思っている」と記す。その後もまだ売れない彼女のためにと詩集を渡し、彼女にも毎日、詩を書かせたという。いつかブレークするのに備えた勉強のためだ。

 満島がヒロインとなった「愛のむきだし」は上映時間4時間という怪作だが、ベルリン映画祭カリガリ賞、国際批評家連盟賞をダブル受賞し、園監督の名を知らしめた作品だ。満島は当時、まったくの新人ではなかった。いい芝居をキープしているので、6テイク撮ったときから特に演出する必要がなかったそうだ。吉高、満島との関係をふりかえり、「僕らは映画づくりにおいてバンド仲間のような『共犯関係』にあったと思う」と書いている。

ヤクザの組長に脅された体験もとに映画

 園監督の「子温」という名前は本名で、キリスト教に由来するというのは有名な話だ。愛知県の大学教授の家庭で育ち、妙に文化的な環境に反発し、小学生の頃、裸で登校したり、学級新聞に「号外、あなたはセックスを知ってるか」と題し、「あなたの父と母はこんな行為を続けながらあなたを産んだのだ」と書いたり、ひんしゅくを買う問題児だったことを明かしている。

 このほかにも「地獄でなぜ悪い」は、ヤクザの組長の娘と知らずに関係をもち、その後組長に「娘をレイプしたのか」と詰問された監督自身の体験をもとに脚本を書いた話など、園作品のファンにはたまらないエピソードが山盛りだ。

 自主制作映画からスタートし、いまも「単独者として日本の映画界で闘っている」園監督を知る上で欠かせない一冊だ。  

  • 書名 獣でなぜ悪い
  • 監修・編集・著者名園子温
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2018年5月30日
  • 定価本体価格1200円+税
  • 判型・ページ数四六判・175ページ
  • ISBN9784163908472

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