読むべき本、見逃していない?

「地球上の3つの力」が猛烈に加速している

遅刻してくれて、ありがとう(上)

 この十数年のスパンで過去を振り返ると多くの人は、とくにテクノロジーの分野で、進化が速まっていると感じるのではなかろうか。本書『遅刻してくれて、ありがとう(上)』(日本経済新聞出版社)は、2000年代の初めからこれまでを、あるいは今後しばらをも含め「史上最も変化が激しい時期」と位置付け、そうした「加速の時代」だからこそ、少し立ち止まって考えようと訴える。

 原書は1年半前に米国で出版されベストセラーとなり、ニューヨーク・タイムズ紙の書評では「激動を最大限利用し、最悪の影響を避けるための方法が提示されている21世紀のフィールド・ガイド」と述べられている。著者のトーマス・フリードマンは同紙のコラムニストとして知られ、3度のピュリツァー賞受賞歴を持つ世界的ジャーナリスト。

テクノロジー、グローバリゼーション、気候変動

 著者は「現在の状況」を、15世紀半ばにドイツの金属加工職人グーテンベルクが「革命的な印刷技術」発明を機にもたらされて以来の激動に見舞われているとみる。グーテンベルクの発明は宗教改革への道を拓いたが、「それ以降、現在の状況に匹敵するほどの事態はなかったといえるだろう」。

 激動を促しているのは「地球上の3つの力」の加速度的進化や変化。「3つの力」は、テクノロジー、グローバリゼーション、気候変動で、これが同時に加速した結果、「私たちの社会、職場、地政学的要素が変容しつつあり、新しく捉え直す必要が生じている」

 その節目となったのは2007年。まず1月にアップルのスティーブ・ジョブズ氏が最初のiPhone(アイフォーン)を発表して衝撃をもたらす。究極のメディアプレーヤーと電話の機能を持ち、インターネットにもストレスなく接続するマルチ端末。発表直後からアプリ開発が熱を帯び、スマートフォンがのちにはインフラ機器としての存在感を持つようになる。

 さらには1台のコンピューターで複数OSが走るソフトが開発され、扱えるデータ容量が飛躍的に向上。グーグルがiPhoneを追いかけアンドロイドを発表、アマゾンがキンドルを発売して携帯端末市場に乗り出してきた。フェイスブックが世界的に拡大したのもこの年だったという。またビッグデータ解析が本格化し、AI(人工知能)の利用可能性に対する期待をさらに高めることになった。

 ワープロやコンピューターが登場しはじめたころ、操作するためには特別の知識やスキルが必要だった。現代の子どもや若者らはデジタルネイティブと呼ばれ、まだ読み書きを習っていない幼児でも電子端末を使うことができる。そうした様変わりは、われわれの身の回りではデジタルディバイドと呼ばれる格差を生み、社会、ビジネスの面でも激しい変化をもたらしている。

マイクロチップの素子は毎年倍増

 著者は、こうしたテクノロジーの進化を支えているものの一つとして、マイクロチップ(集積回路)の処理能力の向上に触れる。たとえば、インテルのチップは現在、第6世代インテル・コアだが、この性能は1971年のものと比べ性能は3500倍になった一方、コストは6万分の1に圧縮された。同社の設立者の一人、ゴードン・ムーア現名誉会長は1965年に、チップの素子は毎年倍増すると予言。これは現実のものになっており、予言は「ムーアの法則」と呼ばれている。法則はなお有効で、機器の一層の高性能化、小型化が見込まれる。

 テクノロジーの加速する進化はさまざまに国際市場に影響を及ぼし、グローバリゼーションの推進力になり、地球環境にも変化をもたらしている。変化はますます加速度的に進む。それらの進化や変化に果たして人間が対応しきれるのか。「イノベーションの加速度は、平均的な人間と社会構造が適応して吸収する能力を、はるかにしのいでいる」と著者は懸念を示す。

 加速する進化と変化は今後、さらに社会や環境に負荷を増すに違いない。だが、市民らにテクノロジーの進化の恩恵である快適さを求めるなというのは無理がある。だが、とりかえしのつかないようなことになる前に、立ち止まって考えてみようと著者は訴える。

 著者は自分の仕事のため、朝食を一人で食べる時間がもったいないと、ワシントンで政府高官、外交官、アナリストらとレストランで待ち合わせテーブルを挟むようにしていたという。時間や場所柄、相手が遅れてくること多い。あるとき、相手が遅刻したときに「自分の時間」を持てていたことに気がつき、その大切さを実感。タイトルはそのことから思いついたらしい。

 この種の本を書くのは、日本のジャーナリストにはなかなか難しい。日本も、日本のジャーナリストも、「3つの力」の最前線にはいないということを痛感する。

 「遅刻してくれて、ありがとう(下)」は、価格=本体1800円+税、424ページ。

  • 書名 遅刻してくれて、ありがとう(上)
  • サブタイトル常識が通じない時代の生き方
  • 監修・編集・著者名トーマス・フリードマン著、伏見威蕃訳
  • 出版社名日本経済新聞出版社
  • 出版年月日2018年4月26日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数日本経済新聞出版社
  • ISBN9784532176334

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