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遭難者救助ヘリ、有料の県はどこだ

登山者ための法律入門

 登山や山歩きには事故がつきものだ。注意していても、天候の急変などで巻き込まれる。中高年の参加者が増えて、そのリスクは高まっている感じがする。

 事故が起きないようにはどうすればいいか。万一、起きたときの責任は? 本書『登山者ための法律入門 山の法的トラブルを回避する 加害者・被害者にならないために』 (ヤマケイ新書)はそのあたりを丁寧に解説している。「山好き」の必読書と言える。

年間2000件を超える事故

 2014年の御嶽山の噴火事故では山頂付近にいた登山者ら約60人が犠牲になった。17年に起きた栃木県那須の雪崩事故では、登山講習会に来ていた高校生7人と引率の教師1人が亡くなった。18年5月にはエベレスト登頂に挑んでいた登山家、栗城史多さんが下山中に亡くなった。山にまつわる事故は、ちょっと思い浮かぶだけでも枚挙にいとまがない。

 本書によれば、2016年の山岳遭難事件2495件、遭難者2929人、死者・行方不明者は319人。裁判にまでなる山岳事故は年に数件だが、事故を巡るトラブルは増えているという。

 著者の溝手康史さんは1955年生まれの弁護士。国立登山研修所専門調査委員、文科省冬山事故安全検討会委員などを務めてきた。自身も長年、登山に親しんでおり、世界各地の7000メートル級に登頂、日本山岳サーチ・アンド・レスキュー研究機構、日本山岳文化学会、日本ヒマラヤ協会などに所属している。著書に、「登山の法律学」(東京新聞出版局)、「山岳事故の法的責任」(ブイツーソリューション)などもある。登山者と、トラブルに対応する法律家の両方に関係している。

警察や消防などの捜索、救助活動は原則無料

 一般人が興味を持つのは、遭難救助の経費は誰が払うのかということかもしれない。本書によれば、警察や消防などの捜索、救助活動は原則無料。それ以上に、民間などに頼むときは有料になる。山岳保険に入っておれば、一定の範囲で費用が出る。埼玉県の防災ヘリだけは有料だというから、秩父方面の山に行くときは心しておこう。

 事故が起きたときの法的責任は、刑事責任と民事責任に分かれる。どういう場合に、どちらの責任が問われるか。本書では、友人同士の登山、山岳会やハイキングクラブ、登山ツアーなどに分けて詳述、ツアーガイドや講習会のインストラクターが負う注意義務、学校登山、クラブ活動などについて丁寧に書いている。

 近年、登山以外にもさまざまアウトドアの活動が盛んだ。都市化、IT化が進めば進むほど、自然への郷愁も強まる。それがレジャーなのか、スポーツなのか、冒険なのか、時と場合によって判別がつきにくいものもある。何かのイベントの当事者になって、思いがけない事故に巻き込まれるリスクは、かなりの人にあるだろう。その意味では、本書は登山に限らず、多くの関係者にとって参考になる。

  • 書名 登山者ための法律入門
  • 監修・編集・著者名溝手康史 (著)
  • 出版社名山と渓谷社
  • 出版年月日2018年1月12日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数新書・232ページ
  • ISBN9784635510486
 

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