読むべき本、見逃していない?

四半世紀ぶりに出た『サザエさん』謎本の磯野家愛

磯野家の危機

 1990年代以降に「謎本」ブームというのがあった。その始まりとされるのが91年発行の『ウルトラマン研究序説』で、そのヒットに刺激されて翌92年に出た『磯野家の謎』(飛鳥新社)が200万部の超ベストセラーとなり、以後、雨後の筍のように、有象無象の「謎本」が発行され今日に至っている。

 代表者や執筆者の名前を公表しているものはまれで、「○○研究会」や「○○学会」を名乗り、複数のライターや愛好家が自説を展開しているものが少なくない。その匿名性から内容の信ぴょう性に疑問がもたれるケースもあり、最近は一時のような勢いを失っていた。

 そうした「謎本」の現状に危機感をもった訳ではないだろうが、本家本元の「東京サザエさん学会」が四半世紀ぶりに新刊『磯野家の危機』(宝島社)を出した。

 「東京サザエさん学会」の代表者は慶應義塾大学名誉教授の岩松研吉郎さん。昨年(2017年)秋、テレビアニメの「サザエさん」が終わる、という噂が流れた。長年スポンサーをつとめてきた東芝が経営不振によってスポンサー降板を発表したからだ。内容的にもいまだに黒電話一台しかない磯野家と現代のギャップを指摘する声もあった。新しいスポンサーがつきアニメの「サザエさん」は続くことになった。平成も終わろうとしているのに「昭和の感覚」に止まっていて大丈夫なのか? それがタイトルの「危機」にもなっているのだが、「しかし、変化するものがある一方で、磯野家とともに残るものは残っていくし、残すべきものもあるのだ」という視点で、家族や社会の変化を「サザエさん」をテキストにまとめたのが本書だ。

磯野家は土地だけで2億円

 「磯野家の人々」「磯野家と社会」「磯野家と文化」の3章構成で52項目にわたり考察している。いくつか面白い見出しをピックアップすると。

【住宅】磯野家は土地だけで2億円の価値! 波平亡きあとは骨肉の争いに!?
【健康】磯野家のまわりはヤブ医者だらけ! 波平は口コミサイトで病院を探すべき
【マスコミ】ノリスケのような勤務態度では出版不況の今ならリストラ必至!?
【トイレ】トイレが4つもあった磯野家はリフォームだけでも大変な出費に!?

 マンガ『サザエさん』は著者の長谷川町子さんが亡くなったため、磯野家は昭和で時間が止まっている。しかし、本書によるとアニメでは、磯野家には最新家電は登場しないものの、友人たちの家にはゲーム機やクーラー、パソコン、携帯電話があるなど、少しずつ「現代」が取り入れられているそうだ。

 多くの項目で、著者は磯野家や昭和の家族、社会を揶揄するのではなく愛をもって分析している。一時の勢いはないもののいまだにアニメでは視聴率ナンバーワン。多くの家庭で『サザエさん』は視聴されている。連載漫画を掲載していた朝日新聞では、相変わらず関連連載「サザエさんをさがして」が続いている。「平成」の次の時代でも放送は続いていくことだろう。  

  • 書名 磯野家の危機
  • 監修・編集・著者名東京サザエさん学会 著
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2018年6月 1日
  • 定価本体980円+税
  • 判型・ページ数四六判・190ページ
  • ISBN9784800283566

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