テレビ番組の視聴率ランキングを読売新聞、朝日新聞は毎週掲載している。近年ベスト20に入る敷居がますます低くなっているようだ。テレビドラマでヒット作と言うには最低15%必要だったのが、最近では12%でヒット作と言われるようになった。ちなみに今期ドラマでは「特捜9」(テレビ朝日系)が14%台でもトップを走っている。もちろん録画して見る人が増えているのも事実なので、それを補正した数字も業界では活用している。それでも以前のような視聴率は期待できない。スマホ、ネットに接する時間が増えて、テレビを見る時間が減っているのだ。これは統計で明らかになっている。
本書『誰がテレビを殺すのか』(株式会社KADOKAWA)は、テレビ業界の生き残り策について、「iモード」立ち上げで知られる著者の夏野剛さん(慶應義塾大学大学院特別招聘教授)が書いたものだ。
アメリカ発のネット動画配信サービス「ネットフリックス」やAmazonのプライム・ビデオのサービスが日本でも本格的に普及している背景を解説し、「通信スピードの改善とデータ通信の大容量化、デバイスの進化とコンテンツが充実した今、テレビの優位性はまったくと言っていいほどなくなってしまった」と見る。
さらに5Gという第5世代移動通信システムの時代が到来すると、サービスの作り方が根本から変わると予測する。その一方、5Gが実現しても区別は人間の眼では分からないという見方もあるそうだ。ともあれ、東京オリンピックの2020年には導入される見込みだ。ネット回線がなくてもネットフリックスが見られるようになり、高齢者のネットリテラシー格差が解消されるのではと著者は見ている。
ここまでは技術的な解説が大半を占めるが、第3章「テレビの息の根を止めるもの」では、現在視聴者の大半を占めるのは60代以上で、視聴率を上げるため、かれらにおもねり、政権批判のニュースを民放は流しているのだ、と政治的なスタンスに踏み込み、著者は主張する。さらに将来、テレビ局に求められるのは、コンテンツ制作集団への脱皮だという。
これらの主張で評者が連想したのは、安倍首相が言い出した放送法4条(政治的公正の確保など)の撤廃を軸とする放送法改正案だ。インターネット放送の本格的導入によって、既存の地上波テレビ局、中でも地方局は存廃の危機を迎えるとして、地上波局は大反対だ。
夏野氏の予測と放送法改正案はコインの裏表のようなもので、資本の論理でテレビ業界が自ら変化するか、官の圧力(法改正)によって変えられるかはともかく、結果は同じようなものになるだろう。
評者は現状のテレビの実情を是とはしないが、いち「コンテンツ制作集団」となってしまったテレビ局にも明るい未来はないように思う。ネットに詳しく、テレビにも明るい著者の分析は、テレビ業界関係者には耳が痛いかもしれないが、無視できない内容をはらんでいる。
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