鉄道ファンには、いろいろなタイプがいる。写真を撮る「撮り鉄」、もっぱら乗るのが目的の「乗り鉄」、駅弁などを食べ歩く「食べ鉄」、最近は廃線跡を探して歩く「歩鉄」(?)というジャンルも現れたようだ。本書『消えた!東京の鉄道310路線』(イカロス出版)は、鉄道史学会会員で『東京消えた!全97駅』『東京消えた!鉄道計画』(いずれもイカロス出版)などの鉄道関連本の著者中村建治さんが、都内を歩き回り、おもな廃線跡を紹介したものだ。豊富な写真と地図があるので、散歩がてらにかつての鉄道の跡を探索できる。
今でもはっきりその跡が残っているのが、新宿駅前から水天宮前を走った「都電13系統」の新宿・靖国通りの繁華街裏を走る専用軌道区間だ。今はゴールデン街の横の遊歩道になっている。ゆるやかなカーブを描き、ビルの陰から電車が飛び出してきそうな雰囲気が残る。
本線から工場などに引かれた短い盲腸線も東京には多かった。たとえば武蔵野市の都立武蔵野中央公園周辺には、戦前の日本を代表する航空機メーカーだった中島飛行機武蔵製作所という軍需工場があった。ゼロ戦などの軍用機のエンジンを作っていた。この工場への物資輸送のため、中央線の武蔵境駅から引き込み線が敷設された。戦後の1953年に工場跡の一角に「東京スタジアム グリーンパーク野球場」が作られ、プロ野球観戦の観客輸送のため、引き込み線は敷き直され、三鷹駅から延びる国鉄「武蔵野競技場線」となった。その後、野球場はなくなり59年に廃線となった。線路跡の大半は遊歩道となり活用されている。
都内でもっとも新しい廃線は東急東横線の渋谷~代官山間だろう。地下化され、地上の廃線の一部はおしゃれなショッピングロードに生まれ変わった。
本書の写真を見ると、今は住宅街のなんの変哲もない道路となり、鉄道が走っていたとは思えないところも多い。その中にかすかな痕跡を発見するのが「歩鉄」の醍醐味のようだ。
310路線とあるが、そのうち125路線は都電が廃線になったものだ。地下鉄ネットワークに再編された都電はともかく、各種工場への専用線、軍用鉄道線、石灰石や砂利、野菜や鮮魚を運んだ貨物線も少なくない。今は巨大消費都市となった東京だが、かつては生産都市のカオを色濃くもっていたことが分かる。廃線跡をたどり、そうした産業遺跡に思いをはせるのもゴールデンウィークの一興かもしれない。
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