読むべき本、見逃していない?

まさに映画であり文学である至上の小説

『スタア誕生』

 若くしてデビューし、途切れることなく作品を発表し続ける手練れの小説家、金井美恵子の新作のタイトルは、『スタア誕生』(文藝春秋)である。書籍紹介のための二重カギ括弧ではなく、書名が『スタア誕生』なのだ。ジュディ・ガーランド主演の映画にちなんでいる。

 著者の出身地である群馬県高崎市とおぼしき関東の小都市の1950年代半ばが舞台となっている。美容院「モナミ」のマダムに小学生の「私」と弟がある事情で預けられている。マダムの家には3人の娘と美容師見習いの娘が2人いる。この中の一人の娘が映画のニューフェイスに応募し、映画女優になってゆく過程を「私」の眼から描いている。

 金井美恵子の粘着的な文体はある意味で異様だ。息継ぎができないような数ページ続く長い一文が平気で出てくる。語り手が小学生の女の子である割に描写は微細で、変に物知りなのもどうかと思う(最後に事情がわかる)。商店街の雑踏のざわめきや映画館のわいざつな雰囲気が伝わってくる。「昭和」がいちばん輝いていた時代がリアルタイムで描写されているのだ。

 実は本作は2002年に刊行された『噂の娘』と同じ設定だが、続きではないというスピンオフ作品だ。前作については「谷崎潤一郎の『細雪』の楽しいところだけが延々と続くような感じ」というネットのコメントがうまいと思った。少女の体温が伝わってくるような楽しい時間と空間が夢のように持続するのは、前作同様だ。

 ここで種明かしはできないが、前作も本作も最後の数行で、がらりと様相を変える。少女時代が楽しいのにはワケがあるのだ。

 この小説は読者を選ぶ作品だ。そのかわりこれまで味わったことのない異様で濃密な読書体験を保証する。文芸評論家の清水良典氏は「記憶というフィルムを言葉に焼き付けていく本書は、まさに映画であり文学である」(日本経済新聞2018年4月7日付、書評)と絶賛している。

  • 書名 『スタア誕生』
  • 監修・編集・著者名金井美恵子 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2018年2月20日
  • 定価本体1850円+税
  • 判型・ページ数四六判・253ページ
  • ISBN9784163908007

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