芥川賞作家を2人同時に輩出した根本昌夫さんの『[実践]小説教室』(河出書房新社)を先日(2018年4月9日)紹介したばかりだが、小池真理子の新作『死の島』(文藝春秋)の主人公は、まさに小説講座の講師だ。
元文芸編集者の澤登志夫は定年後、小説講座の講師を続けてきたが、がんが転移し体調が悪化したので辞めることにした。最後の講義を終えた澤に声をかけてきたのは宮島樹里という娘だった。厳しい講評に泣きだす受講生もいる中で、樹里の書いた短篇『抹殺』を秀作とほめたことがあった。舅(しゅうと)に夜な夜な犯される若い人妻を描いた物語は「母が体験した実話だった」と澤に打ち明ける樹里。けっして美人でもなくあかぬけてもいない樹里に不思議な魅力を感じた澤は、定期的に喫茶店で会うようになる。書き出しは小説講座にかかわる講師や受講生の人間模様をうまく描いている。
澤は40代に家庭を壊して以来独り暮らししていた。講師を辞めてから、がんの進行とともに体力は衰え、外出もおっくうになる。澤を師と敬愛する樹里は、しだいに澤の部屋にも出入りし、なにかと世話をするようになった。だが、自分の人生の終わり方に強い覚悟を持っていた澤は、自分の計画に樹里を巻き込むことを恐れ、一人で別荘のある長野県・佐久へと向かう。
本の帯に「この尊厳死は罪か」とあるので、いずれ澤が亡くなるのは予想がつくが、果たして樹里とはどうなるのかという関心で読者はページを繰ることになる。樹里は外見には似合わない過去があったことも明らかになり、澤との関係は......。
本書の中で1997年7月に自殺した文芸評論家の江藤淳の遺書が出てくる。「心身の不自由は進み、病苦は耐え難し。去る六月十日、脳梗塞の発作に遭いし以来の江藤淳は形骸に過ぎず。自ら処決して形骸を断ずる所以なり。乞う、諸君よ、これを諒とせられよ」
このくだりを読んで連想したのが、最後の著書『保守への遺言』を残し、1月(2018年)に多摩川に入水し、自裁した評論家の西部邁氏だ。その後、自殺を手伝ったとして知人2人が逮捕されたので、本書の主人公の思惑はけっして絵空事ではなかったことがわかる。
本書では驚くべき自殺の方法が紹介されている。果たしてそれは可能なのかどうか? 文学的評価を別にしても議論を呼びそうだ。
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