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読む一服...「茶事」第一人者のエッセイ集

人生に愛される 幸せはお人から運ばれてくるものよ

 千葉・東金に開いた「鶴の茶寮」で茶懐石を提供している半澤鶴子さんは、懐石や茶によるもてなしである「茶事」の第一人者とされる。50歳を機に「一人茶事行脚」を始めて、今年25年目になるという。その様子が民放やNHKのテレビ番組で放送され、人や自然などに対する謙虚なアプローチに共感が寄せられた。

 本書『人生に愛される 幸せはお人から運ばれてくるものよ』(講談社)は、そうした反響を受け、半澤さんが書きためていたエッセイを、テーマ別にピックアップして編集、書籍化したものだ。食や自然、四季、風土、暦などトピックは多彩で、時にはチクリと感じさせる社会批判、文明批判があり、こちらも、癒しにも似た共感を抱かせる。

審美眼あれば無駄予防し断舎離不要

 本書はテーマ別に6章建て。「私の人生―つまずきながらも歩く」「がんばっているあなたへ」「私の楽しみ」「四季を生きる」「つくる、食べる―口福を求めて」「歳を重ねるということ」――これらが6つのテーマだ。

 「省みれば、繰り返し、繰り返し、私は絶望しながら歩んできたような気がします」と振り返り、そして「あなたの心が帰る場所を見つける」ことを勧める。その場所の心躍る風景を手繰り寄せれば「ぐっと顔を上げて天を仰ぐことのエネルギーとなるのでは」という。

 「私の楽しみ」ではたとえば「未来に生きる人たちから学ぶこと」を挙げ、茶事の周辺行事のなかで子どもたちと接する時間が持てること喜びを語る。後半の3つのテーマでは、季節に応じたライフスタイルの大切さ、旬を味わう幸せ、世界に先駆け日本人に課されたとする「高齢社会を健やかに生きる」役目を論じる。「がんばっているあなたへ」の編では、高齢社会の副産物である「断舎離」ブームに触れ、こう述べている。

 「昨今、物を持たない、ミニマリストという言葉がはやっています。あらゆる無駄な物を捨てて、すっきりと暮らすことらしいのですが、もし自分がそこそこの審美眼を養っていれば、多少なりとも無駄なものを防ぐことができるのでは...。釜に限らず、洋服や装飾品などにも言えることですよね。百%満足して買わなかったものは、見るたびに違和感のようなものを覚えて、案外ストレスをためているやもしれません」

 本書に収められている文章は、茶事の客から寄せられた礼状の「お返事として工夫したもの」で「鶴の茶寮」に設けた茶室の名を冠した「自蹊庵便り」という茶寮の会報に掲載されている。約20年に渡り半澤さんが書き続けており、それを仕分けして一部を本書にまとめた。

NHKで紹介され反響

 半澤さんは1943年に満州で生まれ、2歳のとき父親が行方不明になったのを機に日本に来た。その後母親とも別れ、広島県内の瀬戸内海の島にすむ父親の遠い親戚に預けられ養父母に育てられた。その後、養母と上京し中学卒業後に働きながら洋裁学校に通い自活をはじめた。20歳のときに結婚し神奈川・鎌倉に住み1男1女をもうける。その後、通信制の高校を卒業、さらに保母資格、調理師免許を取得し、料理学校で講師を務めるようになった。半澤さんはこの間に千葉に転居。料理学校は都内にあり通勤に長時間かかったことなどもあり過労で倒れたことも。本書では、50代で目の病気から「失明寸前までの経験」をしたことなどが明かされている。

 この目の病気は克服できたが、医師から再発すれば失明するといわれ「最もやりたいことに絞り、打ち込むことに決めました。それが、季節に呼応した料理、茶事懐石の出仕事屋です」という。

 70歳になった半澤さんが、茶道具や食材を自動車に積み込み、着物姿で運転して出かけ、到着した先で荷物をおろして準備をし、出会った人たちをもてなす。それが、港であったり雪の中であったりと場所を選ばない。その様子をNHKが2年にわたって追い、半澤さんの生い立ちを含めてドキュメンタリーに仕立て、2016年5月にEテレのETV特集で放送。少なからぬ反響があり同年7月と翌年1月に再放送された。

 本書では「はじめに」で、著者自身が簡単に生い立ちや茶事とのかかわりについて述べているのだが、上澄をすくったように控えめなのが惜しまれる。ここに、もう少し掘り下げた評伝的なセクションがあれば、続く「自蹊庵便り」からの数々の文章にも半澤さんの真意が行間ににじんだのではなかろうか。

  • 書名 人生に愛される 幸せはお人から運ばれてくるものよ
  • 監修・編集・著者名半澤鶴子 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年2月21日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数B6変型・176ページ
  • ISBN9784062208864
 

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