タイトルの「アルテーミス」とは、ギリシャ神話に登場する狩猟の女神、あるいは純潔を司る処女神のことだ。妊婦の守護神でもあるが、突然死をもたらす疫病の弓矢も持つ。生を与えながら、生を奪う。男女の性愛を嫌悪し、特に男性の性的な欲望に対して激しい怒りを持つ、残虐の女神とされる。
本書は四部構成になっている。「プロローグ 女衒(ぜげん)」は、AV女優5人のインタビュー本の出版企画「アルテーミスの采配」が動き出す。「第一部 第一の采配」は、ライターの名賀尻龍彦がインタビューしたAV女優が、次々と死体で見つかる。「AV女優連続不審死事件」の容疑者にされた名賀尻は、ある男に「あんたを守るから、俺と一緒に来てほしい」と言われ、「例の洋館」に監禁される。
「第二部 第二の采配」は、出版社で働く倉本渚が、名賀尻が遺した原稿を手にする。原稿は「僕は犯人ではない。本当の、黒幕は」という告白の途中で終わっている。渚は原稿の真偽を疑いつつも、好奇心のあまり事件の真相に迫る。「エピローグ 最後の采配」は、最後に来て、またもや物語が思わぬ方向へ展開していく――。
本書『アルテーミスの采配』(幻冬舎)の帯にある、「1頁目から罠はもう始まっている。」のコピー。罠にかからないよう注意していても、知らぬ間にかかってしまう。作品全体に伏線が張り巡らされていて、最後まで読み進めたところでようやく、登場人物の関係性や全体像が見えてくる。
「自分の意志で選択して、自分の足で歩んでいるように見えて、実は、それは誰かの『采配』だったりする」とあるように、誰かに人生を狂わされた人物が、今度は誰かの人生を狂わそうと目論む。復讐心は、途切れることなく連鎖していく。本書は、至るところに仕掛けられた罠が巧妙で面白く、一気に読める。そして最初から、今度はストーリーを確かめつつ読み直したくなる。
著者の真梨幸子は、2005年に『孤虫症』で第32回メフィスト賞を受賞し、デビュー。11年に文庫化された『殺人鬼フジコの衝動』がベストセラーとなった。『人生相談。』は第28回山本周五郎賞候補。本書は、15年9月に刊行された単行本を18年2月に文庫化したもの。
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