世界中で動画共有サービス事業を展開する米ユーチューブ(YouTube)。だれでも利用できるオープンプラットフォームの提供で、規模の拡大につれ、その機能は「共有」というより「発信」ツールとしてみなされるようになっている。その広がりはインターネットを通じたサービスだけに国境に制約されることなく、いまでは大手メディアを凌ぐ影響力を持つ。
『YouTube革命』(文藝春秋)は、米ユーチューブの副社長で、業務全般を統括するチーフビジネスオフィサー(CBO)のロバート・キンセル氏が、同社経営陣として初めて、成長の軌跡について綴ったもの。ユーチューブの発信力を利用して成功したユーチューバーらとのかかわり、広告ビジネス、ユーチューブによるスターシステムを確立させた「ジャスティン・ビーバー」をめぐる秘話を明かしている。
スマートフォンで、タブレット端末で、パソコンで、本書によると、毎月世界で約15億人がユーチューブを利用しているという。2005年に米国で生まれ、見逃した人気テレビ番組をいつでも見られることなどから注目されるようになり、アップロードされている動画をブログなどに引用できるインターフェースが登場して普及が加速した。
誕生してからまもなく映画制作会社が作品の予告編をユーチューブを使って配信をスタート。これをきっかけに、さまざまな企業や組織、個人がチャンネルを開設してコンテンツを流すようになる。米国ではテレビや映画、広告などはもちろん、政治、ビジネス、報道などあらゆる業界で利用されており、版元が添えた惹句の一つには「日本で起きていることは、まだ序章に過ぎない」とある。
米国で起きているユーチューブをめぐる本編とはどんなものなのか。まずは、ユーチューバ―とよばれるクリエーターたちによる新しいカルチャーの開拓だ。本書は「序章」と「おわりに」を含めて全15章からなるが、そのうちの5章のタイトルに「ユーチューバ―」がある。「ユーチューバ―誕生」「ユーチューバ―が社会を変える」「ユーチューバ―が広告をつくる」などだが、タイトルにはなくてもユーチューバ―をテーマにした章がいくつかあり、全体の半分以上をユーチューバ―が占める。
「大手の組織で、コンテンツが生み出した広告収入をすべてのクリエーターに分配しているのはいまのところYouTubeだけ」であり、そのことが、クリエーターを育て、新しい作品を生む。だれにでも利用できるプラットフォーム、無料配信システム、広告収入の分配で、タレントとしてユーチューバ―は数多く、その予備軍も豊富だ。エンターテインメントの分野でユーチューブは大手メディアから覇権を奪ったと著者は胸をはる。
日本でもユーチューバ―は存在感を増しているが、うけ狙いが過ぎてトラブルも起きている。今年1月、米国の著名ユーチューバ―、ローガン・ポールさんが来日し、山梨・青木ケ原の樹海に入り撮影した遺体の動画を投稿。世界中から非難され炎上、ユーチューブはポールさんとの提携を解除した。昨年には人気ゲーマー「ピューディパイ」こと、スウェーデンのユーチューバ―、フェリックス・シェルベリさんが人種差別的な内容の投稿が問題視されユーチューブを離れた。
本書でユーチューバ―とともに、ユーチューブを支える存在としてリポートされているのは「ストリームパンク」と著者が呼ぶ人々。本書の原題は「Streampunks(ストリームパンクス)」。著者によるとストリームパンクとは「自分の創造力(クリエイティビィティ)を世界中てシェアするという大きなチャレンジに意欲をかきたてられ、YouTubeというプラットホームで成功を収めた先駆者たち」のことを指す。広義にはユーチューバーらも含まれるようだ。
著者が、ユーチューバ―とは別にストリームパンクの筆頭格として論じているのは、ネット向けコンテンツ制作や報道を手がける米ヴァイス・メディアの共同創業者、シェーン・スミス氏。同社は北朝鮮で元NBA選手のデニス・ロッドマン氏と金正恩委員長との対面を演出するなどさまざまな挑戦をしながら現場主義の報道を手がけている。いわゆるミレニアル世代(Y世代)では、大手メディアが発するニュースに対し上から目線的なものを感じ信頼しない傾向強まっていることを指摘し、ヴァイス・メディアがユーチューブを通じて次代のCNN、あるいはそれ以上の存在になる可能性について述べている。
ユーチューバ―を含むストリームパンクの活躍で、エンターテインメントで大手メディアから覇権を奪い、ジャーナリズムでは新たな担い手であると著者はユーチューブを位置付ける。ユーチューブではすでにミレニアルの次のZ世代を照準に進化を目指しているという。
デジタル時代の報道で課題になっているのは「フェイクニュース」の排除や、SNSにアップされた個人撮影による現場写真や映像の使用だ。著作権、プライバシー、名誉棄損・・・。テクノロジーの駆使により既に、内容の真偽の判定や撮影者との接触がすぐさまできるようになっていることなどが報告されている。
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