3月4日(2018年)の朝日新聞3面の書籍広告を見て驚いたミステリーファンも少なくないだろう。あの原尞が14年ぶりの新作となる本書『それまでの明日』(早川書房)を出したというのだ。しかもデビュー30周年記念作品とある。この間、発表した長編は直木賞受賞作『私が殺した少女』を含めわずか4つ。しかも短・長編ともに私立探偵・沢崎を主人公にしたものしか発表していない。その寡作ぶりとこだわりは伝説となっていた。
ページを開くと、「西新宿のはずれのうらぶれた通りにある<渡辺探偵事務所>」とあるから、沢崎シリーズは健在だった。その沢崎のもとに望月皓一と名乗る紳士風の男が現れ、赤坂の料亭の女将の身辺調査を依頼した。望月はよく知られた金融会社の新宿支店長だった。沢崎が調べると女将は半年ほど前に亡くなっていた。望月の職場である支店を訪れた沢崎は強盗事件に巻き込まれる。しかも依頼人である望月は姿を消し、事件は暴力団などが絡む金融事件の様相を呈してきた。依頼人の狙いは何なのか?
新宿署の錦織警部、暴力団清和会幹部の橋爪、手下の相良らシリーズおなじみのメンバーが登場する。沢崎はあいかわらず携帯電話を持たず、電話代行サービスを利用している。事務所もビルの取り壊しのため立ち退きを迫られている。人も場所もそれなりに年月の経過が感じられる。しかし機知に富んだ会話、どんどん事件の本筋に迫る沢崎の行動力は変わらない。
これまで沢崎の歳を気にしたことはなかったが、今回は主要登場人物とのやりとりでそれを意識させられた。前作『愚か者死すべし』以来の14年という空白をどう埋めるか著者も腐心したに違いない。ラスト、別のビルに移転した事務所で沢崎は東日本大震災と思われる地震に遭遇する。「地の底からの大いなる暴力が相手では減らず口を叩くことさえできなかった」とある。大震災からまもなく7年。著者はどう書くか、それだけでもかなりの時間を費やしたのだろう。本書の担当編集者はテレビ出演し、1枚も原稿が入らない時期もあったと話していた。4作でシリーズ累計150万部という。直木賞作家は長い眠りから覚めたと言っていいだろう。
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