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「日劇ミュージックホール」にも出ていました

好きか、嫌いか、大好きか。で、どうする

 「夏木マリ」の名前で芸能活動を始めて今年が45年目。その前には2年間ほど本名でアイドル歌手として売り出しを図っていた時期があるという。昭和のバブル期以前を知る世代にとっては「絹の靴下」の歌手であろうが、その後は活躍の場を演劇に求め、今は舞台女優としての活動が主になっている。

 歌手の時代にはキャバレー回りが続く不遇な時代が一度ならずあり、女優としては、しばらく「鍛えられる時間」を過ごしてメジャーな存在への成長を果たした。その経験を見込まれて女性誌で悩み相談の連載を担当。本書『好きか、嫌いか、大好きか。で、どうする』(講談社)は、その連載を書籍化したもので、後半生を中心にした夏木さんの自伝的読み物などが加えられている。

「絹の靴下」から45年

 夏木さんは女性誌「FRaU(フラウ)」で2017年3月から、連載企画「夏木マリの人生相談 腹を、お決めなさい。」を持ち、独特の感性でさまざまな悩み相談に答えていた。だが10月に同誌が定期刊行から18年春に不定期刊行に変更されることが発表され、それを機に本書の出版が企画されたという。

 5章だての本書の各章間には「悩み相談」のセレクションを配置して、連載企画のスピンオフ的な体裁ではあるものの、メーンは夏木さんの芸能活動をめぐる自伝だ。夏木マリといえば「絹の靴下」を連想する者にとっては、本人が語る、それ以降の四十数年、それ以前の数年は非常に興味深い。

 「夏木マリ」になる前、19歳のときに本名でアイドルとしてデビュー。「大人に言われるがままに頑張って、コケて、何だかなぁ...と思っていたら、1年後に夏木マリとして再デビュー」したという。妖艶な振り付けと思わせぶりなフィンガーアクションが施された「絹の靴下」は大ヒットしたものだが、20代にはあまり良い思い出がないと振り返る。

 最初のデビュー時、そして「絹の靴下」のヒットのあと、いわば不遇の時を過ごす。米女性ロックシンガーのジャニス・ジョプリンみたいに歌いたいと思っていたのに「ちぐはぐな格好をして」キャバレーに出演する毎日を送っていたという。

 「やけくそで続けていました。ここで思い切ってやめようという気概もない。だから安室奈美恵さんのような人が羨ましい。歌姫と呼ばれ、頂点を極め、やめる。アーティストであれば、あんな風にかっこよくあってみたいと思う。でも20代の私は、頂点を極めたわけでもなんでもないから、やめようにもやめられなかったのです。頂点を極められない辛さ、ね。それでダラダラと10年が経ってしまった」

何かを始めるのに遅すぎることはない

 その後、トップレスの女性ダンサーよるレビューで知られる「ヌードの殿堂」日劇ミュージックホールへの出演依頼が舞い込む。「ヌードと一緒はちょっと...」と最初はしり込みをしたものだが、ステージのエネルギーに圧倒されオファーを受け飛び込んだところ「やる気にスイッチが入って」本気になりだした。同劇場には著名な演出家や映画監督がしばしば足を運んでおり、こうした人たちに「本気」が評価され、演劇・舞台の世界に活躍の場を広げる。映画、小劇団、歌舞伎、シェークスピア、ギリシャ演劇と多彩な経験しながら「鍛えられ」女優として成長を遂げることになる。

 その後、米ニューヨーク留学などを経て、自ら発信者になりたいと、企画から構成、演出、出演まで全てを手がける舞台表現「印象派」を立ち上げシリーズ化され今年、25年目に入った。「結婚願望はなかった」が、音楽家の斉藤ノヴさんと出会い59歳の時に入籍した。「印象派」を始めたのが40歳を過ぎてからのことだったことを合わせ、何かを始めるのに遅すぎることはないと強調する。10年ほど前からは途上国支援のプロジェクトに携わり、人生でなお新しいことを発見した経験にも触れている。

 夏木さんが雑誌の連載で担当した人生相談のタイトルは「腹を、決めなさい」。本書で述べられている「トンネル時代」や「崖から飛び降りる」ような経験を背景にしたものだ。本書で示されている波乱万丈の半生に接して、さらに掘り下げた「夏木マリ伝」を期待したくなった。

  • 書名 好きか、嫌いか、大好きか。で、どうする
  • 監修・編集・著者名夏木マリ
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2018年2月23日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数B6判・159ページ
  • ISBN9784062210034
 

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