1月21日(2018年)に多摩川で入水自殺を遂げた評論家・西部邁氏の死は、想像以上に社会に大きな衝撃を与えた。産経新聞から朝日新聞までその死を悼み、多くのメディアが「自裁」という形で言論活動に終止符を打った意味を問い続けている。本欄でも「『最期の書』が本当に絶筆になってしまった」と前著『保守の真髄』(講談社)を紹介したが、どうやら真打がいたようだ。本書『保守の遺言』(平凡社)が、本当に最後の絶筆である。
亡くなる6日前の1月15日の日付で「僕流の『生き方としての死に方』に同意はおろか理解もしてもらえないとわきまえつつも、このあとがきの場を借りてグッドバイそしてグッドラックといわせていただきたい」と結んでいる。
副題の「JAP.COM衰退の状況」については、戦後、日本民族が廉恥心、公平心などを失ってしまった情けない現状を、あえて軽薄に表現したものだと説明している。
本書では「スマホ人」「多忙人」「無礼人」など、現代日本の世相を批判しているほか、安倍首相についても、「安倍首相よ、プラクティカリズム(実際主義)の空無を知られたし」と題し、こう書いている。
「首相に限らず現代人は、指導層であれ追随層であれ、おおむね実際主義を旨として、経済的利得や政治的権力や文化的栄誉にありつくべく、我欲丸出しで生きそして虚無のうちに死んでいるといってよいであろう」
さらに森友問題などに沸く世論に対しても「対米追従に徹しておればこの列島は何とか生き延びられるであろうというプラクティカリズム(実際主義)の態度が現代日本人に骨がらみにとりついてしまったことの帰結なのであろう」と批判する。
アメリカから独立するには「核」武装が必要であるという氏の年来の主張についても、かなりの紙幅を割いて論じている。その一方で言論の虚しさについても触れている。
前著が編集者の勧めに応じて書いたのに対し、本書には言い残したことを書きたいという能動的な強い意志が感じられる。それゆえ今後、物議をかもすだろうことも書いている。「『国民社会』主義、それだけが未来に可能な国家像」という項だ。ナチズムの擁護とも誤解されかねない内容を含んでいる。しかし、「人々がおのれらの公人性を社会の表面で演じ合うのでなければ健全かつ面白い社会が成り立つはずもない」「そうした公衆によってのみ健全な政府が作り出される」という認識には、真の「保守」の面目がにじみ出ているのではないか。死後ますますさかのぼって西部邁氏の著作は読まれるだろう。
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