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愛する人への嘘は、すべて悪か?

嘘を愛する女

 大手食品メーカーに勤める由加利は、恋人の桔平と同棲5年目になる。ある夜、由加利の母をまじえて食事をする約束をしたのだが、桔平は一向に現れず、連絡もつかない。明け方になり由加利は、桔平がくも膜下出血で病院に運ばれ、昏睡状態だと知る。

 その時、桔平の名前も職業も、由加利が知っている桔平のすべてが、偽りだったと判明する。由加利は、桔平が何者なのかを明らかにするために、探偵に調査を依頼し、唯一の手がかりである桔平の書きかけの小説を携えて、彼の正体を探る旅に出る。

 桔平は何者なのか。なぜ嘘をついて素性を隠したのか。一方、桔平が必死で隠そうとした真実を知っていいのか。意識不明で眠り続ける桔平に対する疑念は深まるばかりだが、桔平が主体で書かれているパートで、彼の過去に潜む"ある出来事"と悲痛な叫びが、徐々に明らかになっていく。

 ある日突然、信じていた人のすべてが嘘だとわかったら、どうだろう。ただ、本書を読むと、嘘が必ずしも悪とは限らないのではないかと思う。むしろ、嘘をつくに至った背景を知り、相手の心境を理解し、許すことができたら、それこそが愛なのかもしれない。桔平の真実を知った由加利の気持ちが向かう先は、別れか、より深い愛か――。

 2018年1月20日に公開された映画『嘘を愛する女』(監督 中江和仁/脚本中江和仁、近藤希実/出演 長澤まさみ、高橋一生)は、カルチュア・エンタテインメント株式会社と株式会社TSUTAYAが主催する映像クリエイター発掘プログラム「TSUTAYA CREATORS'PROGRAM」の初代グランプリ受賞作品で、同プログラムから映画化された最初のオリジナル企画である。

 本書『嘘を愛する女』(徳間書店、2017年)は、映画の小説版として書き下ろした作品。映像で表現しきれなかった由加利と桔平の心情を丹念に救いとるとともに、映画と異なるアプローチをしている。著者の岡部えつは、2008年第3回『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞し、翌年受賞作を表題とした短篇集『枯骨の恋』でデビュー。14年7月に刊行された『残花繚乱』がTBSで「美しき罠~残花繚乱」として連続ドラマ化された。他の著書に『生き直し』『パパ』『フリー!』(双葉社)などがある。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 嘘を愛する女
  • 監修・編集・著者名岡部 えつ 著
  • 出版社名株式会社徳間書店
  • 出版年月日2017年12月15日
  • 定価本体620円+税
  • 判型・ページ数文庫判・264ページ
  • ISBN9784198942847
 

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