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記憶喪失でも、愛する人は微かに覚えている?

毎年、記憶を失う彼女の救いかた

 2014年1月27日、尾崎千鳥は成人祝いをかねた家族旅行で伊豆に向かう車の中にいた。一家を乗せた車は事故に巻き込まれ、両親は他界。千鳥は助かり、事故翌日に意識が戻る。3ヵ月後に再び大学へ通い出したが、事故から約1年後の2015年1月25日、千鳥は倒れ、記憶喪失を起こした。2016年、2017年も、事故が起きた1月27日が近づくと記憶を失い、事故直後まで意識が遡ってしまうのだった。

 2017年4月28日、3度目の記憶喪失が起きてから3ヵ月後、千鳥は23歳になっていた。意識は20歳のままで、空白の3年間を抱えている。その日、千鳥は浜松城公園で見知らぬ男に声をかけられた。千鳥は警戒したが、男は千鳥の記憶が1年しかもたないことを知っていた。

 「賭け――しない?ぼくと一ヵ月デートして、正体がわかったら君の勝ち。どんな関係だったか、どうやって出会ったのか。わからなかったらぼくの勝ち。君が負けたら、ぼくと付き合ってもらう」と男は千鳥に賭けを持ちかける。千鳥は男に反発しながらも、不思議と嫌な感じがしない、なんとなく信用できると思い、応じることにした。

 男の名は天津真人、職業は小説家。デートを重ねる中で、千鳥は真人を受け入れようとしたり、いくつもの線を越えてきた真人の前に新たな境界線を引いたり、二人の関係は一進一退を繰り返す。

 物語は、千鳥と真人の目線で交互に綴られていて、双方の心情を理解できる。期限を迎える前に、千鳥は真人を思い出すのか、真人を信じて好意を受け止めるのか、真人はなぜ千鳥を救おうとするのか。本書の帯のコピー「すべての伏線が、愛――」のとおり、千鳥へ向けられる真人の愛に隠された秘密を知った時、数々の出来事がつながる。儚さとともに、静かに熱が伝わってくるラブストーリーだ。

 著者の望月拓海は、本作の舞台である静岡県浜松市と磐田市で育った。上京後、放送作家として音楽番組を中心に携わった後、本書『毎年、記憶を失う彼女の救いかた』(講談社、2017年)で第54回メフィスト賞を受賞し、デビュー。男女問わず共感を呼ぶ丁寧な心情描写を武器に、サプライズ溢れる恋愛小説を綴る。


BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 毎年、記憶を失う彼女の救いかた
  • 監修・編集・著者名望月 拓海 著
  • 出版社名株式会社 講談社
  • 出版年月日2017年12月20日
  • 定価本体720円+税
  • 判型・ページ数A6判・320ページ
  • ISBN9784062940931
 

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