共同体を束ねるツールとして、しばしば歌が使われる。学校は校歌があり、国家には国歌がある。戦争に突き進んだ時代は、勇ましい軍歌が、軍隊だけでなく国民全体のものだった。
同じように、企業や社員を束ねるツールとして、かつて盛んだったものに「社歌」がある。かつて、と言ったのは、最近は余り歌われてないように見えるからだ。本書『社歌の研究』(同文舘出版)は日本における社歌の歴史と現状を丁寧にフォローしたものだ。
著者の寺岡寛さんは中京大学経営学部教授。中小企業経営の専門家だ。『文化ストック経済論』『経営学講義―世界に通じるマネジメント』など多数の著作がある。
大学を出て最初は化学会社に就職した。そのとき入社式で社歌を歌ったかどうかの記憶は、あいまいだ。その後、役所勤めを経て大学の研究者になった。
最近、最初に就職した会社では、今も入社式で社歌が歌われていることを知った。あの会社にずっと勤めていたら、社歌を覚え、定年後はOB会で肩を組み社歌を歌う一人になっていたかもしれないと、複雑な感慨を覚えたそうだ。
日本で最初の社歌は、南満州鉄道会社の「満鉄の歌」ではないかとされている。大正時代の終わりころ公募され、昭和に入って正式に社歌として採用されたという。これが一つの原型となり、その後、幾つもの会社で社歌が作られ、歌われるようになったという。
しかしながら日本は戦争に負けた。軍国調の、東亜に羽ばたくような歌詞は修正を余儀なくされ、改めて戦後、新生日本にふさわしい歌詞の社歌が作られるようになる。復興から高度成長へと突き進む中で、社員はメーデーなどで労働歌を歌う一方で、スポーツの対抗試合などの場では、社員の一体感を高める応援歌として社歌が機能した。
ところが近年、社歌は下火だ。著者があちこちの会社に社歌について問い合わせても、すぐに答えが返ってこないことが少なくなかったという。
これはおそらく、社員の面倒を定年までみる、日本株式会社の終身雇用のシステムが崩壊しつつあることとも連動しているのではないか。一億総中流という戦後社会がきしみ始めている。会社の中には、派遣やアルバイトが増え、外国人の姿も。年功序列はがたつき、「実力主義」でいつ降格されるか分からない。日本型雇用システムが揺らぎ、社内で一体感を作るのが難しくなっている時代に再び社歌の出番はあるのだろうか。
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