ルポやノンフィクションは、扱っているテーマが知られていないものほど面白い。とりわけ、読者が簡単に肉薄できないものが好まれる。
本書『カイロ大学』(ベストセラーズ)はたぶん、そうした種類の一冊と言える。もちろん、カイロ大学? 関心ないよ、という人もいるだろう。そんな人にはお引き取りを願うしかない...。
形の上では、カイロ大学はエジプトの国立総合大学である。しかしながら、単にエジプトの学生のみが学ぶわけではない。中東など幅広いアラブ・イスラム諸国から多数の留学生がやってくる。いわばこの文明圏の「エリート養成所」なのだ。
米国で言えばハーバードなど、イギリスではオックスフォードなど、フランスにもそれに類する大学がある。それらと似たようなポジションを占めているのが、カイロ大学というわけだ。
いったいどんな有名人が出ているのか。サダム・フセイン元イラク大統領(1961年、法学部中退)、アラファトPLO議長(55年、工学部卒)、ガリ国連事務総長(46年、法学部卒)、石油ショックの時に世界を揺るがしたサウジアラビアのヤマニ元石油相(51年、法学部卒)、アルカイダ指導者のアイマン・ザワヒリ(74年、医学部卒)や9.11の首謀者実行犯などテロ組織の関係者も少なくない。国連や政府の要人、反体制組織の荒くれ者まで、多士済々とはこのことか。「混乱と平和」。いろいろな意味で、世界を揺るがす人材の供給源となっている。
著書の浅川芳裕さんも実はこのカイロ大学の出身。日本でカイロ大学出身者と言うと、小池百合子さんが有名だが、あとは数えるほど。「10年に1人ぐらいではないか」という。元同志社大学教授で、テロ事件などが起きたときにしばしばテレビに登場した中田考さんも数少ない一人だ。最近、『アメリカ太平洋軍~日米が融合する世界最強の軍団』(講談社)を出版した朝日新聞の梶原みずほ記者は、似た名前のカイロ・アメリカン大学の出身。これはカイロ大学とは別物のようだ。
カイロ大学に入ってくる学生は、それぞれの分野でトップをめざし、世界を変えようと闘争するという。その過程で起きる混乱は一切気にしない。
「乱世に強い人材」が育つ理由などを、著者はいくつかに分類し本書で語っている。そもそもカイロは世界一刺激的な都市であり、交渉力がないと生きて行けない。そして学生運動の激しさ。1908年の創立以来、カイロ大学は英国の植民地主義と闘い、独立後も政府や軍事政権への抵抗などが続く。この4年間だけでも、治安部隊との衝突で7人が亡くなっているという。学生運動など過去の物語になってしまった日本とは大違いだ。逮捕され拘留中の学生が試験を受けるための制度まであるという。
本書を読み進むと、アラブ・イスラム社会のパワーを肌で感じる。留学の手引きも記されているが、あまりに別世界すぎてなかなかトライする気が起きないとは思われる。しかしながら、こういう大学があるということを知っておくことは、何かとプラスになるのではないか。
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