赤川次郎さんは日本で最も多作の作家と言われている。これまでに600作品以上を出し、総売り上げは3億冊を超えるそうだ。まさにギネス級といえる。その最新作が本書『キネマの天使』だ。
ニューヒロインは映画撮影所で働く32歳のスクリプター、東風(こち)亜矢子。撮影所に詰めて新作映画の撮影を続けている最中に、主役のアクション部分を担当していたスタントマンが謎の死を遂げる。いったい誰が彼を殺したのか。推理で活躍するのが亜矢子だ。
映画の世界でスクリプターといえば監督の女房役。役者の動き・衣装など映像に写るすべてを記録し、管理する大事な仕事だ。
黒沢明監督のスクリプターを長年務めた野上照代さんは特に有名だ。多数の受賞歴もあり、黒沢作品にまつわる著書も多い。制作プロセスすべてを熟知しているので、とっておきの話がいろいろあるのは当然だろう。
赤川さんはそもそも父親が映画関係者だったし、自身も早くからテレビの「三毛猫ホームズシリーズ」や映画の「セーラー服と機関銃」などに関わっていた。撮影がらみの話はお手の物だ。だからこそ、ふだんは影の存在のスクリプターを表舞台に登場させることができたのだろう。カメラマン、録音技師、照明など職人気質のスタッフたちのセリフ回しにも抜かりがない。
それにしても、赤川さんはどうしてこんなふうに次から次へと新作が書けるのか、アタマの中はどうなっているのだろうか。若い読者向けに、わかりやすい作品を書いている流行作家と思われがちだが、意外に硬派な面もある。しばしば朝日新聞「声」欄に投書を出し、「共謀罪」反対を強く訴えたり。時局にも敏感で多方面への関心を怠らない。アタマの中は知の大型コンピューターになっているにちがいない。だから、どんどんアイデアが沸いてくる。
ミュージカル化された作品もある。劇団「四季」のレパートリー「夢から醒めた夢」だ。終幕の何分間かは観客の多くが涙をぬぐい、すすり泣きが続く。ユーモアミステリー作家と称される赤川さんだが、人心の機微や琴線にも通じている。ご本人もいろいろ苦労したに違いない。
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