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余命宣告受けた末期患者からがんが消えた...

がん消滅の罠 完全寛解の謎

 「日本がんセンター」呼吸器内科医師、夏目典明のもとを訪れるのはほとんどが、手術や放射線治療では間に合わなくなった末期の肺がんの患者だ。そのうちの一人、35歳の女性患者が夏目の勧める抗がん剤による治療を断って新興宗教の自然食品による療法に切り替えたところ3か月後にがんがきれいに消えるというできごとがあった。夏目から相談を受けた、夏目の高校時代からの親友で同センター付属研究所の研究医、羽島悠馬はあっさりそのトリックを見破った。

 それからまもなく、夏目が余命宣告した末期がん患者がつぎつぎに、がんが消滅する「寛解」に至っていたことが判明する。しかも全員が余命告知により死亡保険金を前もって受け取れる「リビングニーズ特約」を交わしていた。夏川と羽島は、大学時代から2人共通の友人である保険会社社員らとその真相を知ろうと動き出す。

確率16万分の1の奇跡が実現

 岩木一麻さんの「がん消滅の罠 完全寛解の謎」(宝島社)が、2016年の第15回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞したときのタイトルは「救済のネオプラズム」だった。「ネオプラズム」は「腫瘍」の意だが、分かりにくいということだったのか、改題されて出版された。「寛解」も一般的とはいえない言葉だが、がんを克服して復帰を果たす芸能人らについての報道などで使われるようになり「がん」とセットで認識されるようになったようだ。現代は「がんと共生の時代」ともいわれるが、それを先取りした作品といえる。

 本書では目次の次ページに「かんかい【寛解】(remission)」の見出しを掲げ、こう説明を示している。「がんの症状が軽減した状態。がんが縮小し、症状が改善された状態を部分寛解(partial remission)、がんが消失し、検査値も正常を示す状態を完全寛解(complete remission)という」。

 夏目が余命宣告しながら寛解に至った患者は4人。いずれも完全寛解だった。しかも高額の死亡保険金を受け取っている。4人のうち2人が治験中の新薬による化学療法、2人が標準化学療法。治験中新薬を使った療法で完全奏功する率は高く見積もって5%という。一般的に、ランダムに選ばれた4人に新薬を投与して全員が寛解する確率は16万分の1であり、奇跡中の奇跡が実現したといえる。

どんな医師も成し遂げられなかったことを...

 夏目らが調べを進めていくと4人にはいずれも、他の同じ医療機関での受診歴があることが分かる。その医療機関の理事長は、夏目の大学院の恩師である腫瘍内科の医師、西條征士郎。西條は「がん幹細胞に対する抗がん剤の効果を調べるための独自の実験手法」を開発するなど、がん治療のエキスパートだったが10年前に、夏目に博士号取得を手配するのと前後して職を辞し姿を消していた。夏目には「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったこと」をするため医師を辞めると言い残していた。

 西條は妻を病気で失い、その後に娘もなくしていた。娘が亡くなった理由は分かっていない。夏目らからの前から姿を消したのは、妻や娘のことと関係があるのか。西條の理事長を務める医療機関は奇跡的な完全寛解と何か関係があるのか。夏目は西條にただそうと考えるが、西條の意を受けたという反社会的とみられる人物がたちふさがる。

 『このミステリーがすごい!』大賞の選考会では「本物の医学ミステリー」として高い評価を受け受賞が決まったという。著者は、大学、大学院で昆虫の研究を続けていいたが、それが抗がん剤ややがん予防の研究につながり、がん研究者に転じたという。国立がん研究センター、放射線医学総合研究所での研究生活ののち医療系出版社に勤務している。本書は、専門性が高いことについて分かりやすく述べられているのはもちろん、その迫真性は圧倒的。そればかりか、意表を突く展開の構想に驚かされる。

  • 書名 がん消滅の罠 完全寛解の謎
  • 監修・編集・著者名岩木一麻 著
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2018年1月11日
  • 定価本体680円+税
  • 判型・ページ数文庫・380ページ
  • ISBN9784800279828

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