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第二の「鬼太郎」「妖怪ウォッチ」を探そう

47都道府県・妖怪伝承百科

 水木しげるさんの一連の作品や妖怪ウォッチなどを通じて、日本人のあいだでは妖怪が身近になっている。本来は異界の住人なので出会うことがマレなはずなのだが...。

 妖怪人気を反映してか、ネットで調べると「妖怪百科」というタイトルの本が山のように出てくる。本書『47都道府県・妖怪伝承百科』もその一つだ。類書との違いは、タイトルにあるように、都道府県ごとに整理していることだろう。

巻末には地域ごとの参考資料

 自分の出身県や、かつて住んだことがある県などのページをめくってみると、なかなか興味深い。たしかに、という部分もあれば、全く知らない妖怪の名前も出ていて、妖怪ワールドの奥の深さや多彩ぶりに驚く。

 本書は、文化人類学者の小松和彦・国際日本文化センター所長らが監修者となり、全国各地の博物館の館員ら多数の専門家が手分けして執筆している。都道府県ごとに「地域の特徴」として、妖怪を生んだ土地柄と背景が記され、具体的な妖怪の名前が数ページずつまとめられている。学術的なことを踏まえ、地域に根ざして研究を続けている人たちによる解説なので、安心して読める。

 巻末には地域ごとの参考資料が大量に掲載され、索引も充実している。たとえば「犬神」を引くと、愛知、大分、高知、徳島、富山の項に犬神が出てくる。自分の県だけと思ったら、大間違い。地域による違いや類似も分かって楽しい。「犬神家の一族」は、信州が主たる舞台だったと記憶するが、ここには登場しない。妖怪とは無関係だったようだ。このほか「海坊主」は10都県、「河童」は30以上の都県に登場する。狐やタヌキの数も多く、ほぼ同数で競い合っている。

 第一部では「妖怪とは何か」「妖怪の歴史」「妖怪出現の時間と場所」「妖怪研究の歴史と現在」を概説。コンパクトにまとめられ妖怪の基本を押さえることもできる。

沖縄では日本兵の幽霊をめぐる話

 妖怪は、近代以前の伝承や古層が現代に伝えられたものと思いがちだが、沖縄の項目では意外なことも知る。戦後20年たったころの話だ。米軍基地の金網の近くで小さな豚小屋を営むおじいさんがいた。子ブタが生まれそうなので、夜通し張り番をしていたら、兵隊さんの幽霊が二人ずれでやってきて、「まだ生まれないかい」と話しかけたという。「あの兵隊さんたち、きっと故郷で豚を飼っていたんだね」とおじいさん。

 沖縄では地上戦で、兵隊や民間人など多数の人が亡くなった。まだ収骨されていない遺骨も少なくない。終戦後33回忌のころまでは、日本兵の幽霊をめぐる話が多数あったという。「妖怪」が地域の歴史に深く根差した記憶であることを、現代でも改めて教えてくれるエピソードだ。

 本書ではメジャーな妖怪だけでなく、地域に埋もれたマイナーな妖怪にもスポットを当てている。漫画家やアニメ作家、編集者が本書をネタ本にすれば、将来、ここから新たなスターが生まれるかもしれない。

  • 書名 47都道府県・妖怪伝承百科
  • 監修・編集・著者名香川雅信、飯倉義之、小松和彦、常光徹
  • 出版社名丸善出版
  • 出版年月日2017年9月29日
  • 定価本体3800円+税
  • 判型・ページ数B6判・320ページ
  • ISBN9784621301586
 

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