東海道・山陽新幹線の東京~博多間の全35駅で下車しながら、その土地のうまさが味わえる酒場を訪ねた紀行エッセイ集。いずれも「旅をしては酒を飲み、その顛末をつらつら書いて飯の種にする」著者ならではの巧みな運びで想像力をかきたてる。
"超特急"の「のぞみ」や「ひかり」ではできない"各駅停車"「こだま」ならではの企画。オリジナルは、東海道・山陽新幹線グリーン車搭載の月刊誌「ひととき」に2014年8月号から3年あまり続いた大河連載で、ファンも多かったという。このほど博多までの完走を果たし単行本として出版された。
著者の大竹聡さんは、大学卒業後、出版社や広告代理店、編集プロダクション勤務などを経てフリーライターに。2002年に仲間と不定期発行のミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊したほか、酒に関する執筆・著作活動を行っている。
テレビのBSやCSを中心に居酒屋を訪ね歩く番組や、乗り鉄モノ、路線バスモノに地場の料理の食べ歩きや地酒の発掘の演出が多くみられるようになってきた。本書のような居酒屋紀行も、このところの"飲み鉄"や"食べ鉄"のブームの一翼を担っているようだ。大竹さんはこれまでにも、東京のJR中央線32駅などを渡り歩いて各駅でホッピーの飲める店を探し出す「中央線で行く東京横断ホッピーマラソン」を刊行している。
本書のスタートは東京駅近くの老舗居酒屋「ふくべ」から。この酒場紀行にはルールがあって、それは「ひとまず各駅で下りてみて、店を探す」ことなのだが、大竹さんにとっては勝手知ったる始発駅ということで、「東京駅近くで一杯やるなら迷うことなし。ずばり『ふくべ』で決まりでしょう」と、いきなりの掟破りから始まった。同店の滞在は「東京のど真ん中で、旅情を味わうひととき」と大竹さん。その描写に接すれば、探す手間などかけずにまっしぐらになる理由がよく分かる。
次の品川駅では、再開発が進んでオフィス街に変身した港南口へ。選んだ店は、地域の再開発前から営業している中華酒場「三平」。酒もつまみも「実にうまい」から、早くも乗車予定の列車を遅らせたい気分になるという。
一コマずつ進む、歩みの遅いすごろくのように西に向かう「こだま」旅。1駅について1軒あるいは2軒を紹介しながらのんびり進む。なかには、地元のソウルフードといわれるメニューを提供する名物店もあり、読みながらここにはいつか...と思ってはさむ付せんがいつのまにか増えている。
各編に添えられている矢吹申彦さんによる、注文した品々のイラストが味わいを深めている。
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