近藤勇や沖田総司、土方歳三ら錚々たるメーンキャラクターでおなじみの新選組。小説や映画、テレビドラマなどで盛んに取り上げられ、最近は漫画やアニメ、ゲームでも大人気だ。
登場人物たちは幕末の動乱で主役の一翼を担い、さまざまな事件に関与する。ただし大きな問題はどこまでが史実か、はっきりしないことだ。
『歴史のなかの新選組』は、東京大学史料編纂所教授や、国立歴史民俗博物館館長などを務めた近現代史研究者の宮地正人さんが、学者の目で新選組について検証した本だ。もともとは2004年、単行本として出版され多数の書評で取り上げられた。NHK大河ドラマで「新選組!」が放映されたころだ。それを文庫化したのが今回の新版だ。
単にサイズをコンパクトにしたというものではない。この10年余りで新選組についての研究はかなり進んだという。特に新選組の母体となった浪士組や、江戸の新徴組に関する研究が進んだそうだ。それらをベースに補足や修正を加えているのが本書だ。
アカデミズムの世界にいる宮地さんが単行本のときからこだわっているのは、語られている様々な出来事が史実かどうかということ。本書でも「前置き」として、「時代小説からの決別」と、徹頭徹尾史料を基に論を展開することを強調している。
具体的には第10章「史実と虚構の区別と判別」に詳しい。新選組を多くの日本人に広めたのは子母沢寛の『新選組始末記』(1928年)だ。その「子母沢本」にはタネ本があった。西村兼文による評伝『新撰組始末記』(1889年脱稿)だ。ところがこの「西村本」をきっちり読んでみると、いくつものおかしいところが見つかる。ゆえに宮地さんは「西村本」についてこう記す。
「ある事実なり事件を手掛かりとして、彼の判断で事実の創作をおこなっていないか、という疑いがある」「一八六五(慶応元)年閏五月以前の記述に関しては、すべての点で、他の史料によって裏を取る必要がある」
このほか宮地さんが史料の不備を憂えるのは、新選組の中心人物、近藤勇についてだ。様々な伝説が残り、人物像が語られ、書状なども部分的に紹介されている。しかし、残念なことに、現在に至るまで「近藤勇書簡集」というものが編纂されていない。そのため、部分的に公開されている書状の全文を見ようと思っても見られない。これまでに新選組の本で儲けた出版社が、きちんとした校訂のもとに、書簡集を出版すべきではないかと提案している。
一方で、新選組の関係者は地方出身者が多いので、それぞれの地元などでは、独自にコツコツと実証的な研究が行われ、良書も出版されていることも伝える。とりわけ日野市立新選組のふるさと歴史館など各地域の資料館の取り組みを高く評価、本書では2004年以降のそうした研究について「補章」を立てて詳しく紹介している。現時点の新選組研究の、一つの到達点を示したものだろう。
かつては非情な殺戮者。その後、卓越した市井の剣客集団として再評価。さらに滅びの美学が加わり、沖田や土方がキャラ立ちして女性の人気も高まるなど、小説やドラマの世界での「新選組像」も時代とともに変化している。いったいどれが本当の新選組なのか。史料を基にした実像の構築に期待しているファンも多いのではないか。今後もさらなる研究の深化が待たれる。
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