夕刊紙の求人コーナーに溢れるように掲載されているのが「デリヘルドライバー急募」の広告だ。「即採用」「年齢不問」「日給2万保証」など、景気のいいコピーが並んでいる。人手不足になるほど人気の業界なのか、なり手が少ない仕事なのか判然とはしないが、明らかなことがひとつある。それは、免許証さえあれば、失業中でも借金があっても、多少後ろ暗い過去があっても、よほどのことがない限り雇ってもらえる売り手市場の職種であるということだろう。いわば「最後の砦」といってもいい職種、それがデリヘルドライバーだ。
本書はそんな"訳あり"の経歴を経てデリヘルドライバーに辿り着いた9人の男性の半生をインタビューによって明らかにしたノンフィクションだ。登場する9人の職歴は、ヤクザ、闇金、アダルト出版社社員、料理人、バイオリニスト、プッシャー(麻薬の売人)などさまざま。著者は丹念なインタビューによって、彼らがデリヘルドライバーとなったいきさつを解き明かしていく。
一般人が寝静まった真夜中、デリヘル嬢を乗せて客のもとに届け、女性がサービスを終えて戻るまで車で待機する。なかにはデリヘル嬢と恋人関係になるドライバーもいる。これから見ず知らずの男に裸を晒し、風俗サービスをする恋人を送り届ける男の気持ちとはどんなものか。そんな男心の機微まで著者は見事に聞き取っている。
だが、9人の半生を読んでわかるのは、多くのドライバーたちの仕事に対する姿勢はとてもドライだということだ。「次の仕事が見つかるまで」、「業界の知人に頼まれて気軽に」、「就職に困って仕方なく」......その職に就いた理由はさまざまだが、彼らは一様にドライバーの仕事を仮の姿と考え、淡々と働いているように思えてくる。
そう感じさせてしまう理由は、おそらく彼らの人生が壮絶すぎるからだろう。例えば、第8章に登場する風見隼人(仮名)は元全日本学生音楽コンクールの優勝者で、将来を嘱望されたバイオリニストだった。だが自分の才能に見切りをつけホストでナンバーワンを目指す人生を選ぶ。才能があった風見はホストとして頭角を現し、月収300万を超える人気ホストとなる。しかし体を壊し酒が飲めない体になり、ドラッグにもはまり、風俗店経営の道に。儲かりすぎて国税に目をつけられ摘発。自らデリヘルを経営し成功を収めるが、長くは続かなかった。店を畳み、デリヘルドライバーをしながら、再び風俗店オーナーとなる夢に向かっている。
本書を読んで暗い気持ちにならなかったのは、この元バイオリニストのように、最後の砦の仕事をしながらも人生を諦めない強さが感じられたからだ。今どんな仕事をしているかではなく、今後どんな人生を送りたいかというビジョンがあるかどうかのほうが、人を元気にさせることを改めて痛感した。
著者は編集者、グラフィック・デザイナー、アダルトビデオ監督、音楽PVディレクターを経て、現在はライター。(BOOKウォッチ編集部 スズ)
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