元日のもつ意味は人それぞれだろう。だが、百貨店に勤める二人にとっては唯一の定休日だった。そんな日に夫が爆弾宣言をした。「サッカーをやる。本気でやる」。妻は反対した。そんな二人の一年をそれぞれの視点で描いた作品だ。
夫の田口貢は30歳。大学までサッカーをやり、サッカー部があることを理由に今の百貨店に就職した。しかし、前の年に廃部となった。毎日が仕事だけになった。そんなところへ大学の先輩、立花立が東京都社会人サッカーリーグ一部に所属する「カピターレ東京」に入らないかと勧誘に来たのだ。アマチュアで無報酬。だが、Jリーグ入りをめざすという。貢はその場で引き受けた。
妻の綾は高卒で入社し、貢とはお互い28歳のときに結婚した。結婚3年目だが子どもはいない。紳士服売り場で働いている。ある日、客の天野亮介に声をかけられる。採寸ミスがあったのだ。そのフォローから一緒に映画を見に行く仲になり、心が傾き始める。
貢のサッカー人生はどうなるのか? 綾と天野の関係はどうなるのか? 夫婦の初めての危機はどうなるのか? ひと月ごとに夫、妻の視点で物語が進んでいく。
アマチュアサッカー界と百貨店業界の様子が詳しく書かれている。夢を持ちながら働く夫、今の生活を守りながらも新たな出会いに心をときめかせる妻。30代の人生のリアリティーが随所に感じられる作品だ。
著者の小野寺史宜さんは2006年に『裏へ蹴り込め』でオール讀物新人賞を受賞してデビュー。サッカーやロック音楽を題材にした青春小説を多く書いてきた。最近は、夫婦を題材にした作品を執筆しており、本作は「夫婦三部作」のラストとなる作品だ。果たして、今年の元日を作中の二人はどうやって迎えるのか。
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