人気ロックバンド「SEKAI NO OWARI」のメンバー、Saoriこと藤崎彩織さん(31)の初めての小説。2018年1月16日に発表が予定されている直木賞の候補作にノミネートされた。「ふたご」のような関係を築いた十代の男女が、ほかの仲間たちと共同生活を送るようになり、その後にバンドを結成するまでを描いた青春小説。
とくにファンの間では藤崎さんの"私小説"的作品としてとらえられて反響を呼び、10月28日の発売直後に重版が決まり累計10万部が発行されているという。直木賞ノミネートでさらに注目を集めそうだ。
中学2年生になった春に西山夏子は校内で、1学年上の月島悠介に話しかけ、それをきっかけに2人は親しくなる。
2人の出会いの場面からは夏子は積極的な女子生徒である印象を受けるが、月島に「私、友達の作り方が、全然分からないや」と吐露するように、いつも一人ぼっちでピアノだけが友達だった。
「自分が誰かの特別になりたくて仕方がないことを、私は『悲しい』と呼んでいた。誰かの特別になりたくて、けれども誰の特別にもなれない自分の惨めさを、『悲しい』と呼んでいた」――。夏子は月島と出会う自分のことを、こう表現する。そして、その悲しさを払うためか、月島が「ふたご」と呼ぶ関係を築いていく。
ピアノ以外に友達ができない夏子と、不良っぽい振る舞いや服装に似合わず理屈っぽく、いちいち本質的なことにこだわる月島。周囲からは"あり得ない"組み合わせにみえるが、無力感に悩む少女は、ほかにはいない独特の感性を持つ少年に導かれるように成長する。だが、夏子には月島がいう「ふたご」の関係には同意できない。
月島に惹かれる一方で苦悩を深める夏子。月島は滅茶苦茶な行動で夏子を困惑させるばかり。たとえば夏子の友達と恋愛関係になり夏子を苦しめる。夏子の視点でその苦悩が語られ、その表現がシンプルながら丁寧で立体感が感じられる。
小説は2部構成。第1部は夏子と月島の出会いからバンドを結成する直前まで。そして、第2部で他のメンバーを加えバンドを結成して活動を始めるまでを綴る。セカオワのファンでなくても、著者がそのメンバーであることがわかっていれば、この第2部をフィクションとして読み進むには無理があるようで、引いては、第1部の夏子と月島の物語の読後感に微妙に影響しそうだ。
著者の藤崎さんは、文芸誌「文學界」(文藝春秋)に「読書間奏文」と題するエッセイを連載するなど、その"文才"も注目されており、本書は「苦節5年」を費やした小説家デビュー作。2017年1月に俳優の池田大さんとの結婚を発表、本書の執筆終盤だった8月には妊娠が分かるなど多忙な1年だった。年明けに出産が予定されており、直木賞選考会の前後となれば、二重の喜びになる可能性がある。
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