アメリカのどんな自然災害よりも被害額が大きい。年間約45兆円。スウェーデンのGDPを上回る金額だという。ほとんどあらゆる金属を餌食にしてしまう「錆」だ。船や自動車はもちろん、橋梁、兵器、缶飲料など、金属と関わる仕事には防錆担当者がいる。一見、錆とは関係なさそうに見える金融やIT産業にも錆の被害に合わずに済む企業はめったにない。彼らが大切にしているサーバーが置かれている場所でも腐食は大きな問題で、あらゆる対策が施されている。北海に浮かぶシーランド公国では、サーバールームの腐食を避けるために、室内に窒素を充満させている。それゆえ、この部屋に入るためには、スキューバーダイビング用具を装着しなければならないという。
「ウォールストリート・ジャーナル」の年間ベストブック選ばれた本書は、"人類最大の敵"ともいえる錆と戦う防錆担当者たちの戦いを、これでもかといわんばかりに描いている。もっとも、どの戦いにおいても防錆担当者の勝ち目は薄いのだが。それほどまでに、錆は強大な敵なのだ。
最初に描かれるのは「自由の女神」を襲った錆との戦いだ。ある冒険家の無謀なチャレンジから、身長約46メートル、体重約225トンの女神の骨組みが、錆だらけだったことが発覚したのだ。自由の女神の補修工事は国家プロジェクトの様相を呈するまでに大掛かりなものとなってしまった。錆との戦いがどれだけ大変かを、読者はこの補修工事で知ることになるはずだ。その後も、"錆びない金属"開発の歴史や、戦艦から銃まで、あらゆる兵器の錆対策を担当する国防総省の錆大使や、石油パイプラインの錆対策プロジェクトに密着する。ある時は、朽ち果てた製鋼所跡で錆の写真を撮り続ける写真家に同行する。著者の錆への情熱はとどまるところを知らない。
中でも読み応えがあったのは、缶詰や缶飲料の缶を作るメーカーヘの著者の執拗なまでの取材ぶりだ。取材先の缶メーカーから拒否されながらも、彼らが缶詰の内部に施す防錆塗料の安全性について、企業の妨害にあいながらも追及する姿は映画化されたら絶対に面白いと思いながら読んだ。
酸素や水がある限り、ほとんどの金属は錆びる運命にある。塩素も錆を発生させやすいので、四方を海に囲まれた島国・日本は錆大国なのだ。だから、錆びる釘を使わない木組み工法が日本で発展した。それなのに老朽化した橋梁や建築物は今も放置されたままで、さらに新しいハコモノを建築しようとしている。ぜひ政治家やゼネコンも本書を読み、錆について考えてほしいと痛感した。
これまで語られることが少なかった「錆」を通じて世の中を見る本書の視点は、新たな文明論としてもっと高く評価されてもよいと思う。(BOOKウォッチ編集部 スズ)
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