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戸籍の名前を替えて「ビックロ」などに潜り込んだ

ユニクロ潜入一年

 著者は前著「ユニクロ帝国の光と影」(2011年)で、ユニクロの成長を支えてきた「影」の部分を暴いたことから名誉棄損で訴えられたものの裁判で勝訴、世間的にはユニクロがブラック企業であるとの印象を強まった。だが、ユニクロ事業を展開するファストリテイリングの柳井正社長は雑誌のインタビューでブラック指摘を否定、著者にユニクロでの就業体験をオファーする。それに対する著者の"アンサーリポート"が本書。1年間、ユニクロの千葉や東京の店舗でアルバイトとして働いた経験をまとめたものだが、柳井社長が考えていたと思われる体験はできなかったようだ。

暗部暴いて出禁、それならば...

 著者の前著をめぐる裁判は14年12月、最高裁がユニクロの上告を受理しないことを決定。ユニクロ側の訴えを退けた一、二審判決が確定し、著者側の主張が認められて決着した。その後、柳井社長は15年2月発売の雑誌で「悪口を言っているのは僕と会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」と発言している。

 著者がユニクロについて"告発第2弾"といえる本書を世に問おうと決意したのは、この発言と全く異なるユニクロの対応に激怒したからという。15年4月のファストリテイリングの決算会見に臨んだところ、ユニクロについての著者の別の記事を理由に参加を拒否され、それは柳井社長からの指示である旨を伝えられた。「それならばこちらにも考えがある」と、バイトとして潜入する準備に着手した。

 「どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたいですね」という柳井社長だが、決算会見をめぐる様子では正面から"応募"をしても歓迎してもらえるとは思えない。だが、のちに、取材の正当性などが問題になったときのことを考えればウソをつくことは避けねばならない。名前は既に知られているので合法的に姓を変えるため、妻と一度離婚してから再婚、妻の性にして戸籍上の名前を変え免許証やクレジットカードなども作り変えたという。

「やりがい搾取」

 バイトとして潜入し勤務したのは15年10月~16年12月。千葉市のイオンモール幕張新都心店で8か月、東京都江東区のららぽーと豊洲店2か月、そして、しばらく間をおいて東京都新宿区のビックロ新宿東口店で2か月。同店に勤務していた16年12月に「ユニクロ潜入一年」の記事が週刊文春に出て素性が知られ解雇された。本書はそのことについての場面から始まる。これまでにも鎌田慧さんの『自動車絶望工場』など、巨大企業潜入ルポはいくつか発表されているが、著者は「働きながら雑誌に潜入ルポを発表したのは、日本ではじめての試みではないかと思う」と述べている。

 潜入したユニクロ各店では、残業代の支給や勤務中の休憩などで改善されてはいたが、ある店舗では店長が「会社倒産の危機」などとスタッフに告げ露骨にシフト時間を削る様子もルポされている。一方で、柳井社長は昇給で報いられるとして精勤を奨励。そうした発言を幹部会でしたとして、それが店内に張り出される。著者は巧妙に処理されるサービス残業の実情などを指摘して、「やりがい搾取」じゃないかと批判する。

 三省堂書店岐阜店店長の渡邉大介さんは「私たちは良質で安価なユニクロ製品を享受しているだけに、ちょっと複雑な気持ちでの読了となりました」と述べている。

 ユニクロは「ユニクラー」と呼ばれる信者や愛用者にとどまらず、幅広い層の支持者を持っている。"ブラック不安"を一掃できればファンはさらに増えるのではなかろうか。本書についてはまだ訴訟が起きてないようだ。

  • 書名 ユニクロ潜入一年
  • 監修・編集・著者名横田増生 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2017年10月27日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数B6判・309ページ
  • ISBN9784163907246

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