マスコミの世界で「アフロ記者」といえば、元朝日新聞記者の稲垣えみ子さん。東日本大震災の後、極端な節電生活をしていることを紙面で公表して話題になった。その記事についていた顔写真がアフロヘアーだったことから、「朝日のアフロ記者」として知られるようになった。
2年前に50歳で朝日を退社してフリーに。その後も節電生活は続き、何冊もの著作を出している。最新作が本書『もうレシピ本はいらない』(マガジンハウス)だ。
はっきり言って、この本はかなりの人の役に立つのではないか。たとえばお金がなくて外食できない貧困女子、グルメ生活にもう飽きた人、菜食主義者や脂っこいものが苦手な人、高齢になって料理が面倒な人などなど・・・。
一食200円。準備10分。だれでも作れるワンパターンごはん。でも、これがウマいんだと、稲垣さんの驚きの食生活が公開されている。
一例として、「炊きたてごはんの日」として紹介されている献立は、焼いたがんもどきに干し大根おろしをのせたもの、ニンジンとカブのぬか漬け、干しキャベツとエノキの味噌汁、海苔、玄米ご飯と梅干しだ。
コンセプトは、炊きたてのご飯のおいしさを味わうことなので、おかずは脇役。ご飯を邪魔しないように設計されている。主役はあくまで「炊き立てご飯」なのだ。
稲垣さんの1か月の電気代は、5アンペアの基本料金のみだそうだ。口座振替の割引で月に200円弱とか。冷蔵庫なし、ガスコンロは一口、それでもできる献立が並んでいる。週刊朝日の10月13日号で、文芸評論家の斉藤美奈子さんが、「『おひとりさまの老後』が怖くなくなること請け合いの好著」と推奨している。
普通なら、おかずが乏しくて情けなくなる。ところが、「貧しいおかずは、おいしい炊き立てご飯を引きたてるため」という逆転の発想で、マイナスを克服する。似たような安価レシピ本は少なくないが、本書は「贅沢しないで生きる」という誇り高き思想に貫かれているので、惨めな気分にならない。おかずは質素でも、背筋がしゃんとする。
こうした生活の是非については、読者の間で好き嫌いがあるだろう。だが、飽食の時代に逆らうという意味では一つの「主義」であり、徹底している。
作家の瀬戸内寂聴さんは50代で出家し、煩悩を断つ生活に入ったことで、かえって人気が高まった。稲垣さんも断捨離を徹底することで、「断捨離教」の教祖的存在としてじわじわ支持を広げるかもしれない。そのあたりを予感してか、表紙イラストにはアフロヘアー姿の「自由の女神」があしらわれている。稲垣さん自身が、新しい「断捨離教」の女神であり、領導者というわけだ。
もう一つ、マスコミ内部の評価として聞こえてくるのが、「稲垣さんは文章がうまい」。断捨離、質素、倹約、スローライフなどを実践し、モノを書く人は少なくないが、話運びの面白さでは群を抜く。生活スタイルだけでなく、文章にもファンが付いているようだ。そのあたりが、朝日退社後も順調に連載や新刊が続く理由だろう。
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