イラク北部からシリア東部の各地を支配していた過激派組織「イスラム国」(IS)は、米軍などの支援を受けたイラク軍の奪還作戦などにより勢力は衰退一方とされる。だが欧州などではIS系とみられるテロ活動は止まず、脅威は続いている。
文明が高度化した現代で、国際テロ組織が"地下"ではなく地上に、どうして非合法な"国家"を築くことができたのか。本書は、その前身をつくったとされる、ヨルダン出身のテロリスト、ザルカウィを、その生い立ちから追い、後継者バグダディによるISの"建国宣言"までを描くノンフィクション。2016年にピュリツァー賞(一般ノンフィクション部門)を受賞した。
著者は、中東問題を中心に安全保障やテロなどを専門とする米ワシントン・ポスト紙記者。地方紙記者時代の1996年に環境問題に関する報道でピュリツァー賞(公益報道部門)を共同受賞している。
中東情勢についてこれまで、200人を超える関係者に取材を重ね、この20年ほどの間にめまぐるしく動いた同地区の歴史を分かりやすく伝えている。多彩なインタビュー、丹念な取材で構成された展開は臨場感あふれ視覚的ですらある。
本書でザルカウィは、アクション映画の悪役のような描写で描かれる。ヨルダン北部のザルカという都市で生まれ、若いころは酒におぼれ、売春のあっせんなどをして過ごす。そんな生活の挙げ句に刑務所に送られ、そこで、イスラム国家を目指す「イスラム原理主義」に接する。それまで、信仰とは無縁ともいえる生き方が、その出会いをきっかけに反転。そして1989年、戦士としてアフガニスタンに向かう。ザルカウィはこのとき自分が、ある運命を背負った人間だと思い始めていたという。
2001年9月11日に、イスラム原理主義を掲げるテロ組織「アル=カーイダ」による米国同時多発テロ事件が発生。米国のブッシュ政権は、当時のイラク・フセイン政権がアル=カーイダを支援していること、同政権が大量破壊兵器を保持していることを指摘してイラク非難を始める。そして、ザルカウィがアル=カーイダの幹部メンバーで同国に潜伏していることをイラク戦争への導入にしたという。
ザルカウィを"利用"したはずの米国だったが、現実にはそれが裏目に出て、ザルカウィの元には支援者が集まり、ザルカウィは短期間に広範囲にわたるテロネットワークを築き、これが後のISへとつながっていく。
読売新聞(2017年10月1日付)の書評で本書をとりあげたノンフィクションライターの稲泉連さんは「政治上の思惑から様々な機会を逸していく米政府、ザルカウィを追うCIAの女性分析官、ヨルダン国王や情報機関のテロ対策部門。それらを中心に繰り広げられる情報戦の生々しさにはとりわけ息をのむものがあった」と述べている。
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