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中年は老化ではなく、進化の到達点だ

中年の新たなる物語

 

 多くの動物は子孫を残すための生殖期間が終われば死を迎える。いわば旺盛な生殖活動をする「青年期」の直後に死ぬ。しかし人間は「青年期」を過ぎてからも長い「中年期」を持つ。いったい人間の中年期は何のために存在しているのか――。これは進化生物学的にも大きな謎の1つとされる。膨大な生物学の論文をベースにしてこの謎解きを行ったのが、生殖生物学者であり動物学者でもあり執筆時42歳の中年であった著者・デイヴィッド・ベインブリッジだ。

 

 冒頭で明かされる結論が超ポジティブだ。「中年は老化ではない。中年ならではの性質はヒトが現在の姿に進化を遂げるための力から生まれたもの」だとする。つまり、「中年は進化の到達点だ」というのである。じゃあなぜ、中年になると白髪になり、老眼が始まり、腹回りの肉がたるみ、物忘れが増えてくるのか。1年がたつのが早く感じられるのはなぜなのか。はたまた、オヤジになるとなぜ若い女性に手を出したくなるのか――。著者はこれらの小さな疑問を一つひとつ解き明かしながら、「中年期はなんのためにあるのか」という大きな謎に迫っていく。

後進を育てることが「人類としての中年」の使命

 

 例えば、中年太り。著者は脂肪のつき方の男女差について考察する。女性は主に胸・腰・太腿に脂肪を蓄積させる一方、男性は主に内臓の周りと腸壁の下が太る。狩猟採取のために走り回るためにはまだ人類が獲物を追いかけるとしたら、どこに脂肪を蓄えるのが効率的か。手足に蓄えたら走りづらい。だから内蔵周りに脂肪がたまりやすくなるように進化したのだ。さらに、つねに食糧不足と対峙して人類は、いつ襲ってくるかわからない飢餓に対応するため、脂肪は使うより倹約するように進化したなどなど。これらの知見から得られる結論は、「中年期のヒトは倹約力を最大限高めた」となる。

 

 こうして小疑問を解いていくことで次第に大疑問の答えが見えてくる。つまり、中年の役割は文化の伝達者になることだ。遺伝子だけでは後世に残せない文化を伝達してきたから人間は進化した。そしてその中心的役割を担ってきたのが、生殖機能を終了させた中年だったと本書は説く。なるほど、サラリーマンの世界でもこの時期に管理職となり、芸の世界でも中年期になると多くの弟子を取るようになる。驚いたのは「高齢になって後進を育てることに関心がない場合、それは病や死の初期兆候である可能性がある」という研究まであるという。

 

 これまで語られてきた中年に関するネガティブな物語とは異なる超ポジティブな物語を提示した本書は、ついついネガティブな思考をしてしまいがちな世の中年諸氏に元気を分けてくれる中年賛歌といってもいいだろう。(BOOKウォッチ編集部 スズ)

  • 書名 中年の新たなる物語
  • サブタイトル動物学、医学、進化学からのアプローチ
  • 監修・編集・著者名デイヴィッド・ベインブリッジ著 成田あゆみ訳
  • 出版社名筑摩書房
  • 出版年月日2014年11月20日
  • 定価本体2200円+税
  • 判型・ページ数四六版・312ページ
  • ISBN9784480860804

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