米コロンバイン高校銃乱射事件は1999年4月20日、いずれも卒業を間近に控えていた同校の生徒2人により引き起こされ、生徒12人と教師1人が死亡、24人が負傷した。犯行に及んだエリック・ハリスとディラン・クレボルドは自殺した。本書は犯人の1人、ディラン・クレボルドの母親の告白録。親として何を間違ったのかを明らかにしようと、さまざまな意味で使命感にかられ、長い時間をかけて記憶をたどりながら筆をとった。
コロンバインはコロラド州の州都であり同州最大の都市であるデンバーの西郊にある町。ディランはここで、ごく普通の家庭で育った。著者は、事件の前まで、自分のことを良い母親だと思っていた。ディランに愛情を注ぎ健全で責任感ある人間に育てているつもりだった。そして著者が何の前兆に気づかぬままに事件が起きる。
事件後も、動機になる理由に思い当らず息子の犯行とは信じられない。だが、警察の調べの内容を知らされて、まだ前向きだった思いは転換する。2人の犯行計画は実は2年以上をかけて周到に練られたもので、銃乱射による昼食時のカフェテリア(食堂)襲撃だけではなく手製の爆弾を仕掛けて爆破を狙っていた。爆弾は不発に終わった。
犯行後発見されたもののなかに「地下室テープ」というエリックの家の地下室で撮られた何本ものビデオテープがあり、そられにはディランら2人がこちらを向いて「忌まわしく、憎しみに満ちて、差別的で、人を侮辱するような言葉」を発する姿が収められていた。ディランのその様子は、家庭では見たことがないものだったという。2人が犯行に及ぶ決意をしたのは、怒りに駆り立てられたものとみられる。
もちろん、事件に至るまでの過程はそんな単純なものではなく、怒りだけでなく、メンタルヘルス上の問題があったらしいことなどが語られる。ディランの遺したノートから、彼が自殺を考えていたことが分かったが、それが殺人に進んだことが分からない。
評者の作家、大竹昭子さんは、怒りを抱くことと犯行に及ぶこととの間には大きな川があるとして「なぜふたりはその川を渡ってしまったのか。そう問うても答えは永遠に出ない。問えるのは、それがどのようにして起きたかということだけだという著者の考えにうなづく」と述べている。
著者は事件の2年後に乳がんを発症。さらに4年後以降、証言の場などでパニック障害を起こした。それでも、償いと使命感から、執筆や講演活動を続けているという。
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