フィクションの体裁を取りながら、グリコ・森永事件の真相に迫った『罪の声』で今年(2017年)の本屋大賞3位を受賞し、ブレークした塩田武士のデビュー作が『盤上のアルファ』(第5回小説現代長編新人賞)である。『罪の声』は、主人公が事件を担当する社会部記者ではなく、文化部記者である点がユニークだが、本作の一方の主人公・秋葉もまた、社会部から文化部に異動し、囲碁・将棋を担当する記者である。神戸新聞の記者だった著者の経歴が、二つの作品に生かされている。
心ならずも将棋の取材をすることになった秋葉は、「家なし、職なし、絶体絶命」のプロ棋士志望の男、真田と出会う。真田は33歳。アマ名人、アマ竜王を制し、あとは三段リーグへの編入試験に通れば、プロ棋士になれるが、関門は厳しい。丸坊主でタンクトップを着た切りの真田は、浮浪者すれすれの男だ。傲岸不遜な秋葉は、ふとしたことから真田を応援するが......。
デビュー作には作家のすべてが詰まっているというが、塩田武士の場合もそうだろう。新聞記者という世界の原理、慣習、悪癖、人間模様。また、将棋という世界の奥深さ、勝負の厳しさ。本作は、真田が主人公のように理解されてきたが、秋葉もまた主人公であることは間違いない。二人がどう交差していくか、はらはらしながら読み進む。30代前半、青春の終わりごろに達し、さて、これからどう生きようと模索する人に勧めたい。何かやったろう、そんな力がみなぎるような作品だ。(BOOKウォッチ編集部 JW)
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