著者柴田哲孝が2007年に出したノンフィクション『下山事件 最後の証言』を読んだ時は、ぶっとんだ。なにしろ、戦後最大の謀略事件ともいわれる下山事件の実行グループに著者の親族がかかわっていた、と証言したのだから。銀座のライカビルを根城とする特務機関関係者や右翼が国鉄総裁下山貞則を拉致監禁して、死体を列車に轢かせたのが、真相だというのだ。
下山自殺説と他殺説は、警察当局だけではなく、新聞各社も激しく自説を展開した。背景には、行方不明前日に国鉄が6万人余りの人員整理=馘首を発表したばかりで、左翼の犯行と見せかけたい占領軍GHQの思惑もあった。
背筋が凍るような、その作品を柴田氏は、あえてフィクションとして再構築した。その効果は二つ。前著で分かりにくかった人間関係が整理されたこと、もう一つは下山貞則国鉄総裁そのものが生きた人間として動いていることだ。
前著を発表してから著者の周囲ではいろいろなことがあったという。親族の名前を挙げて、「犯人」と名指ししたのだから、その苦痛は生半可なものではなかったに違いない。
しかし、ノンフィクション版とフィクション版の本書を通読すれば、真相がどこにあったのかが分かるに違いない。松本清張、斎藤茂男ら作家やジャーナリストが追ってきた戦後最大の謎といわれる下山事件。その真相に最も近づいたのが著者であろう。「血の団結」ゆえに、これまで秘密が保たれてきたが、「血」のつながりゆえに秘密が暴かれたのだ。
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