著者は地域雑誌「谷中・根津・千駄木」を創刊、長く編集に携わった。雑誌で正岡子規の特集を組み、根津の地理がよくわかる句が多いことに気がつき、20年がかりで本書を書いたという。
汽車過ぐるあとを根岸の夜ぞ長き
著者にとって『鴎外の坂』『一葉の四季』『千駄木の漱石』に続く作品となった。「谷中・根津・千駄木」(やねせん)の取材でつちかった土地鑑が生き、明治の作家たちへの愛情が感じられる。
「漱石、鴎外は、最近でも新版の全集が発行されているのに、彼らにまさるとも劣らない文学者である子規の全集は七〇年代に出たものが最後で、それも絶版なのです」と残念がる。本書によって、子規への関心が高まることを期待したい。